別れ•••?
思ってもみなかった言葉に呆然とする。
瞬爾が今夜誘ってくれたのは、私に別れを言う為だったというのか。

「別れって、もう二度と会えないって•••。私たち、もう前みたいな関係に戻れないって事?」

泣きそうになる気持ちを抑えるだけで精一杯だ。
震える声の私に、瞬爾はなぜか不審そうな顔をむけた。

「だって、そうだろ?莉緒は仕事を辞めるんだ。もう何も繋がりが無くなるじゃないか。だいたい、何で一言も相談してくれなかったんだ?俺は莉緒にとって、それだけの存在なんだろ?」

「違うよ!違う!全然違う!」

髪が乱れるほど首を横に振ると、涙も溢れてきた。

「私は、瞬爾からのプロポーズを踏みにじった。結婚した後の自分の毎日しか考えられなくて。だから、今回のプロジェクトで、悔いなく仕事をして自分の迷いにケリをつけたかったの」

涙で視界は滲むけれど、瞬爾の表情だけは分かる。
戸惑いの顔で、私をただ見つめていた。

「やっと分かったの。結婚をするってどういう意味か。瞬爾を好きだから、ずっと側にいて欲しかったはずなのに、一人で悩んでた。だけど、それも違うって分かったの。瞬爾に相談するべきだった。一緒に未来を歩んでくれる瞬爾に、相談するべきだったの•••」

それを和香子たちが教えてくれた。
そして、瞬爾が投げかけてくれた。
結婚を夢見てただけの私に、本当の結婚を分かっているのかと、問いかけてくれたのだと思う。

「今さらだって言われても仕方ない。だけど、お願い。もう一度だけチャンスをちょうだい•••」

「チャンス?」

戸惑う瞬爾を真っ直ぐ見つめる私の目からは、涙は止まっていた。
私にプロポーズをしてくれた時、瞬爾はどんな気持ちだったのだろう。
そして、どれほど本気で私との未来を見てくれていたのか。
それを考えると、自分の幼さを腹立たしく感じてくる。

「瞬爾、私には瞬爾が最後に恋する人なの。この先、瞬爾以外の人を好きになんてなれない。未来も見えない。だから、私からプロポーズをさせて。結婚してください、私と」