わたしから、プロポーズ



エレベーターが着き、出たところで瞬爾は足を止めて私を見つめた。

「話したい事?それなら私も、瞬爾に伝えたい事があるの」

プロジェクトも成功し、海外赴任も決定した今だからこそ伝えたい気持ち。
瞬爾を誘い出すタイミングが図れないままだったけれど、今夜がチャンスかもしれない。
そう思うと、気が逸る。

「そうか。じゃあ、移動しよう。車で来てるんだ」

「うん」

話とは何か。
不安が入り混じる中、車に乗り込み瞬爾に任せたのだった。

「ねえ、瞬爾。どこで、私を待っててくれてたの?全然気が付かなかった」

「それが、正面玄関だったんだよ。そしたら、莉緒が反対方向から帰ってきて。気が付いた時には、エレベーターに乗ってたからさ。慌てて追いかけたんだよ」

そう言って笑う瞬爾は、どこかぎこちない。
顔が強張っている感じだ。
いつもと様子が違う事に気付いたら、私もいつもの様に話しかける事が出来なかった。
そして沈黙が続くなか、車は夜景の見える高台へと着いたのだった。

周りは遠くに住宅街が見えるだけで、他に車も人もいない。
いつか、ヒロくんとも高台から夜景を見たけれど、隣に居るのが瞬爾というだけで、見える景色がロマンチックに感じる。

「それにしても、さっきはビックリだったよね。遥たちってば、あんなに堂々とキスしてるんだもん」

瞬爾の話が何なのか気になる反面、それを避けたくて遥たちを引き合いに出してしまった。

「キスか•••。莉緒は、やっぱり覚えてなかったんだな。打ち上げの夜、俺とキスした事」

「え?」

どうやら、遥たちの話を引き合いに出したのは逆効果だったらしい。
私を見つめる瞬爾の目が、まるで突き放している様でショックだった。

「キス、したろ?莉緒から求められた事が、嬉しかったんだけどな」

全ては夢じゃなかったのか。

「あの日、瞬爾は迎えに来てくれたの?」

呆然とする私に、瞬爾は頷いた。

「莉緒が酔いつぶれてるって、久保田さんから連絡があったから。それで俺が迎えに行ったんだよ」

あの夜、感じた温もりもキスの感触も本物だったなんて•••。