「約束を守ってくれてありがとう」
現場で待っていた久保田さんは、予想に反して優しくレコードを受け取った。
それが返って不気味で、これを最後に私は担当を外されるのかと思うと、つい身構えてしまう。
「本当に、ご迷惑をおかけしました」
頭を下げる私に、久保田さんは軽いノリで応えたのだった。
「まあ、思ったよりは根性があるんだな」
「ありがとうございます•••」
久保田さんの言葉を、嬉しく思う自分がいる。
これを、最高の褒め言葉として受け取ろう。
「本当にお世話になりました。それでは私は、これで•••」
横で見守ってくれていた瞬爾と部屋を出ようとした時、久保田さんに呼び止められたのだった。
「勝手に帰るなよ。明日の打ち合わせが、まだ出来てないだろ?」
「え?」
振り向いて呆然とする私に、久保田さんは顔をしかめた。
「だから、打ち合わせだよ。その為に、こんな時間まで待ってたんだけどな」
「え?でも、私は今日限りで担当から外れるんですけど•••」
まさか、忘れたのか?
様子を伺う様にそう言った私に、久保田さんは思い切りため息をついた。
「鈍いな。伊藤課長、通訳してくれる?」
すると、瞬爾が笑顔で私の背中を軽く押してくれたのだった。
「担当を続けろと仰っている」
フラフラと久保田さんに近付く私の背後で、瞬爾が部屋を出る音が聞こえた。
私が担当を続けてもいい?
まるで想像もしていない展開に、ついていけていない。
そんな私に、久保田さんは言ったのだった。
「元恋人に感謝しろ。今日中にレコードを探せなかったら、あんたを外すつもりだったんだ」
「久保田さん•••」
力になりたいと思っていた瞬爾に、私が助けられてしまった。
この仕事を区切りにするつもりだったけれど、これで悔いはない。
自分自身をようやく知る事が出来たから。