わたしから、プロポーズ



いよいよ、F企画とのプロジェクトが始まる。
今日の打ち合わせは、こちらのメンバー4人と、F企画の担当者である美咲さんと牛島(うしじま)さんという方と行うらしい。

遥と広田さんは出先から直接F企画に行くらしく、時間が空いていた私は、会社から直接向かう事にしたのだった。

「坂下!」

エレベーターホールへ向かっていた時、瞬爾に声を掛けられ振り向いた。
いつかの帰宅中の夜みたいだ。

「課長」

小さく笑みを返したのは、ほとんど無意識だった。
今は、こんな風に声をかけられるのが嬉しい。
ついこの間まで、気負っていた自分が嘘みたいだ。

「今から行くんだろ?俺も行くから、一緒に行こう」

「はい•••」

瞬爾を一方的に思っていた頃、こうやって並んで立つ事にすら緊張して、胸を高鳴らせていた。
そんな気持ちが、今少しずつ思い出されてくる。

「懐かしいな」

エレベーターへ乗り込んだ瞬間、瞬爾がそう言った。
二人きりのエレベーターは、なおさら緊張する。

「懐かしいって、何が?」

会話をしてもらえて有難い。
無言の方が緊張するからだ。
話に乗る為に、すかさず会話を返したのだった。
すると、瞬爾は穏やかな笑みを浮かべた。

「莉緒と付き合う前の頃を思い出したんだよ。こんな風に、わざと声をかけてたなって」

「わざと?」

私の言葉に我に返った様に、瞬爾は軽く口を手で覆った。
そして少し気まずそうに、ゆっくりと手を離すと苦笑いを浮かべたのだった。

「莉緒を意識する様になった頃、こうやって社内で見かけては、無意味に声をかけてたもんな」

「そうだったっけ?」

なんて、照れ隠しにとぼけてみたけれど、思い返してみれば瞬爾に声をかけられた事が多かった。
あれは、わざとだったのだ。
そう思うと、顔はニヤけそうになる。

「今さらだけど、瞬爾の気持ちが分かって何だか新鮮」