わたしから、プロポーズ



「いい事なんかじゃない。無理矢理キスをされただけだから」

「無理矢理?」

心配そうな顔を浮かべる瞬爾を見て、本当はそういうつもりではなかったのに、嬉しく思う自分がいる。
そんなズルイ部分がある事が分かって、ちょっと楽しい。

「うん、無理矢理。だから、私の本意じゃないの。それを、わざわざ瞬爾に言ったのは、隠しておきたくなかったから。プロジェクトが成功したら必ず伝えたい話があるから、その為に話したの」

立ち止まったのは、この駅で瞬爾と別れなければいけないから。
実家へ帰る私は、瞬爾とは路線が違う。

「分かった。俺も、莉緒に話さなければいけない事があるから。お互い、このプロジェクトが賭けだな」

「仕事を賭けにするなんていけないけど」

お互い笑い合っていると、どんどん最初の頃を思い出す。
瞬爾とただ一緒にいるだけで楽しかったあの日を。

あまりに懐かしくて笑いながら歩いていると、段差につまずき転びそうになる。
その瞬間、瞬爾が腕を引っ張り引き寄せてくれたのだった。

「危ないな莉緒。ちゃんと前を見て歩けよ」

「ありがとう•••」

抱き寄せられる事で感じる、ついこの間まで当たり前だった瞬爾の温もり。
そして香る甘い匂い。
その全てに、胸はときめく。

だけど、今はそれに気持ちを委ねるわけにはいかない。
ゆっくり離れると、瞬爾は優しい笑顔を向けてくれたのだった。

「気をつけて帰れよ」

「うん。瞬爾も気をつけて」

こんな風に、少しの距離のお陰で思い出す気持ちがある。
それは、私たちに距離が必要だったと教えてくれている様だった。