わたしから、プロポーズ



「 そろそろ帰ろうか。課長に俺たちが二人でいるところを、見られているはずだから」

「うん。そうだね」

逃げる様にあの場所を去ったのだから、不審に思われているはずだ。
ヒロくんに言われ戻ろうとした時、たまたま離れた場所にいるカップルが目に入った。

「刺激たっぷりだな」

同じくカップルを見たヒロくんが、苦笑いでそう言う。

「うん。早く、行こう」

私たちが見たカップルは、何とキスをしていたのだった。
いくら夜だからといっても、私たちがいる事くらい分かるだろうに。

20代半ばくらいに見えるそのカップルたちは、濃厚なキスを続けていた。

刺激があり過ぎだってば。

心の中で、そう愚痴を言いながら足早に去る。

「俺たちもカップルに見えるよな」

呟く様に言ったヒロくんの言葉に、心臓が跳ね上がりそうだ。

「う、うん•••。見えるよね。きっと」

さっきのキスシーンは余計だった。
妙に意識をしてしまっているのは、そのせいだ。

すると、そんな私の手をヒロくんは優しく握った。
その行為に鼓動はさらに速くなる。

「なあ、莉緒。俺は、課長とうまくいかなければいいとは思ってない。だけど、隙があれば莉緒を奪いたいとは思ってる」

「ヒロくん•••。私•••」

言葉が続くはずもなく、握られた手は汗が出そうだ。

タクシー乗り場へ着き、タクシーの扉が開いた時、ヒロくんはその手にキスをした。

「俺は、いつでも話を聞くから。辛い事があれば、何時だって構わない。電話して」

それに返事をする間もなく、タクシーの扉は閉まったのだった。