わたしから、プロポーズ



「夢を見てただけ?」

呆気に取られた私に、ヒロくんは自信満々に続ける。

「そうだよ。友達は専業主婦で、毎日が旦那さんを待つだけの生活。その間する事と言えば家事くらい。それと、ささやかな趣味程度かな?莉緒には、それがつまらなく見えたんだろ?」

そんな風に指摘されて、返す言葉もない。
私は結婚に夢を見ていただけ。

それを言われれば、そうなのだろうか。
瞬爾との結婚生活を、私はどんな風に思い描いていたのだろう。

「私ね、仕事をしながら結婚生活を続けたかったの」

「そうなのか?凄いじゃないか。それは、課長に話したのか?」

「ううん。だって、瞬爾からは仕事を辞めて欲しいって言われたから」

力なく首を横に振った私に、ヒロくんはため息をついたのだった。

「ちゃんと、課長に言わないとダメだよ。きちんと向き合わないで結婚を迷ってるんじゃ、課長も納得出来ないだろうなぁ」

「ヒロくん、どっちの味方なのよ」

わざとらしく睨んでみるも、ヒロくんには効いていない。

「基本は莉緒だよ。だけど、ちょっと課長が不憫になった」

それを素直に受け入れる事が出来なかったけれど、ヒロくんの言う事も最もだ。
瞬爾には、私が結婚を迷う理由が分からないに違いない。
私ですら自分の気持ちが分からなかったのだから。

もしかすると、ヒロくんが理由だと思われているかもしれない。

「課長に仕事を続けたいって、ちゃんと言った方がいい」

そう言われて、とりあえず頷いた。
これ以上、ヒロくんに心配をかけない為に。

問題は、そんな簡単な事ではないけれど、ヒロくんにこれ以上の迷惑はかけられない。

言う通りに、瞬爾と話しをしてみよう。
海外赴任の話だって、確認しないといけないのだから。