「よく来てくれたね」
「……うん」
「最後だと思ったから、会いに来てくれたんだろ?」
「………そうだよ」
「もう二度と、こんなふうにふたりで雨の日に本を読むこともない」
「そうだよ、もう二度とないんだよ」
「この時間、好きだった。
世界から切り取られたみたいな、俺たちだけの」
「同じこと、思ってたよ」
「その男は、お前を幸せにしてくれるかな」
「すこし馬鹿だけど、めちゃくちゃ甘やかしてくれるひとだよ。優しいよ」
「そうか。なら、安心した」
「俊彦みたいに厳しくないし、頭良くないからすぐ騙せちゃうし、口喧嘩も余裕で勝てる」
「はは、こんな女に振り回されて可哀相な男だな」
「……本当に、私もそう思う。こんな、俊彦ばっかりの私でもいいって言う、馬鹿な、男」
「……ああ、そうなのか」
雨がひっきりなしに降り注ぐように、ぱたた、ぱたた、と鳴るように、そんなテンポで私たちは語り合った。
涙が止まらなかった。
どうやったって、止まらないから、きっと台風が近いんだと思った。
でも台風なら、いつかはきっと過ぎ去って後には何も残さない晴天になる。
だから。



