木々の中に、二人の足音が響く。

「・・・着いた・・・」

中島君は、歩くのをやめてそう言った。

「え・・・?」

私は慌ててあたりを見回したが、何か変わったものは・・・・・・ない。

するとその時、

「・・・たる・・・」

小さくつぶやいた中島君。

たる・・・?

何のことを言ったのか分からない私は、頭の中でその言葉を繰り返した。

すると、

「・・・ホタル・・・」

さっきの声とは違うはっきりとした声が聞こえた。

「蛍・・・?」

思わず聞き返す私。

「・・・うん・・・蛍。さっきここにいたんだ・・・一匹だけ。でも・・・いなくなっちゃった・・・」

そう言った中島君は少し残念そうな表情を浮かべていた。

こんな顔もするんだ・・・

このビルの多い町で、蛍を見ることなんてめったにない。

だから、中島君が少しだけ羨ましいと感じた。

「・・・すごくきれいだったんだ・・・」

表情は変わってないのに、なんだかうれしそうで・・・

そんな表情は私の心を簡単に動かしてしまうことを、私はこの時初めて知った。