花管、不思議語り

今晩は、みなさま。はじめまして。


お久しぶり、の方もいらっしゃるでしょうか。


わたくし、名前を花管と申します。


どうか、そのまま花管と呼び捨てて下さいませ。


さて、今日も世にひっそりと息づく奇々怪々な話を届けにまいったのですが……そうですよ、別に


布教


をしに来たわけではありません、お嬢さん。


………話がそれてしまいましたわね。


それでは不思議話をいたしましょう。


不思議話とは何かって?


そのままでございますよ。


この世の不思議にまつわる、あらゆる話です。


わたくしが何者であるか………?


今日はやけに質問が多いこと。


別に言うほどの者ではございません。


先ほど申した、そのままでございます。


まぁ、あえて言わせて頂くなら、わたくし、花管は不思議語り。


なんだそれ?


ふふ、若い方は本当に口を挟むのがお好きね。


いっそガムテープでも貼って差し上げようかしら。


不思議語りとは、その名の通り、不思議な話を売り歩く者。


日本各地、あらゆるところに出向き、不思議を売り歩きます。


お金がいるのかって?


いいえ、頂きません。


もちろん、ただではございません。


売っているのですから。


その時その時、味わって頂く話に応じて、みなさまからはそれに見合うものをいただいております。


心配はありません。


ほとんどの方は、ご自分が何を払われたのか、お気づきになられぬまま、余生を生きられ、この世を去られます。


ええ、あなた様は前にも不思議を買ってゆかれましたね。


五十年ほど、前でしょうか。


お久しぶりです。


本当に。


ええ、ええ。


あなた様とは縁が深いようですわね。


縁のない方とは、一度もまみえることはございません。


縁のある方とは、何度もまみえるのに、縁のつながらない方とは、たとえ同じ街に五十年いてもつながらない。


これもまた、世の不思議でございますね。


さて、前置きが長くなってしまいましたわね。


不思議語りを始めましょう。


今宵、世に人々溢れる中、我々だけが共有する不思議話と、今ここにおられるすべての方との深い縁をゆるりと堪能なさいませ。