「いらっしゃい。あれ、珍しいコンビだね。今日は2人だけ?」
数回麻生さんじゃなくて若い女の子が店番をしていたことがあったけど、それ以外はほとんど麻生さんがこうして出迎えてくれる。
「そう。どこでもいいから部屋空いてる?あと、ベース貸して」
「空いてるよ。今日は咲綺ちゃんと馨君はどうしたの?」
「思いつきで来ただけだから今日は来ない」
「デート?」
頬杖をついてにんまりしている麻生さんと目が合って、咄嗟に視線を逸らした。
「そういうの、オヤジくせぇよ、麻生さん」
「ひっどいなぁ。俺まだ27だよ」
「10も違うのかよ。詐欺だな、あんた」
「それは褒め言葉として捉えていいのかな?」
「別にどっちでも」
麻生さんって喋り始めると大人だなって感じるんだけど、風貌は色黒で髭を生やしていて、渋谷とかで歩いてそうなヤンチャな20代前半の男の人ってイメージだから実年齢より若く見える。
麻生さんがベースを棗君に渡し、指定された部屋に入ってギターケースを棗君から受け取る。
ケースから取り出したレスポールのボディを撫でてみる。
ただ平らなわけじゃなくて、少し曲線を描くようなボディ。
ピックアップのついた所が頂点でそこからなだらかな下り坂が外側へ向かっている感じ。
ひょうたんみたいなこの丸みのある形も可愛らしい。
私もチューニングやアンプへの取り付け方が素早くできるようになって、準備ができると棗君の方を見る。
「好きなの弾けよ。合わせる」
「うん」
赤色のピックを握って弦の上を思い切り滑らせた。
小さなスタジオで初デビューを果たした私の愛器。
スタジオなら思いっきり音を鳴らせる。
太くて甘いレスポールの音色。
棗君が合わせてくれるベースのおかげでそれが一層引き立ってるように思う。
1曲弾いたらまた弾きたくなって今度は別の曲。
弾けるレパートリーが少ないから同じ曲をまた弾き始めたりもしたけど棗君は何も言わずに合わせてくれた。
ずっとずっと弾いていたい。
この音色を聞いていたい。
周りの評価なんて関係ない。
私が私らしい、満足のいく演奏ができたらそれでいい。
こんな小さなスタジオだって音楽を楽めるのに、どこで弾いたって楽しめるのが音楽なのに。
何でこんな簡単なこと、忘れてたんだろう。

