カノン




私は夏限定のマンゴー味のフラペチーノ、棗君はカフェオレ、それとお互いに軽食を頼んだ。


棗君はカフェオレにガムシロップを垂らしてスプーンでかき混ぜた。

意外と甘党?と、新たな棗君を発見してじわり、と心が温かくなった。


目の前でカフェオレを飲んでいる棗君を見ているなんて変な感じ。

私が思い浮かぶ棗君の姿は音楽準備室のソファに座ってベースを弾いたり雑誌を読んだりしてるところ。あとは、ギターを弾いてる姿。

机に座って勉強したりするんだろうか、とか布団に入って眠ったりするんだよね、とか当然のことを考えてしまう。

日常生活をしている棗君がなかなか想像できない。どんな生活してるんだろ。


「棗君は楽器屋さんで何か買ったの?」

「弦」

必要最低限の言葉しか発しないので、話を続けるのが大変。

私と話したくないのかな、と余計なことを考えてしまう。

「自分で交換するの?そういうのって棗君はどうやって覚えてくるの?」

「雑誌とか見ながらなんとなく」

ガムシロップで甘くなったカフェオレをストローから吸い上げる。

コップを持つ手が大きくて、角ばっていて、血管なんかも浮いてて私の手とは全然違う。

父と会うなんて年に数回だから男の人をこんなに観察するなんてことが私の経験上少ない。

この手でギターやベースを弾いてるんだよね。

前から思ってたけど、毎日練習してるのになんでこんな綺麗な指をしてるんだろう。


「棗君っていつからギター始めたの?」

「小学生の時」

小学生の棗君ってどんな子だったんだろう。

今のまま小さくしただけなら可愛げない小学生だったんだろうな。

棗君のことを何でもいいから知りたいと思う。

どんな些細なことでもいいから棗君のこと、もっと知りたい。

「どうしてやろうと思ったの?」

「さあ・・・なんだっけな。ただの反抗だった気がするけど」

「反抗?」

ただ訊いただけなのに鋭い目で睨まれ、ビクッと背筋を伸ばすと棗君はまた短い言葉で答えた。

「忘れた」

訊かれたくなかったことなのかな。

睨んだのはこれ以上詮索するなってこと、だよね。