カノン




何日連続で続いた猛暑日なのか、最早考えるのも嫌になる程、暑い。

でも、今の私にはそれを考えている余裕は毛頭無い。


じりじりと照り付ける太陽の下、私は全力疾走していた。

噴きだす汗が止まらないけど、立ち止まり、拭いてる場合では無い。

滑り込んで来た電車に駆け込み、それでも息つく余裕が無く、気持ちばかりが逸る。

電車の車両が節電を守るエアコンの設定温度は今の私には物足りなくて、自分の手で微々たる風を送り込む。


目的の駅で電車が止まると我先にとホームへ飛び出し、階段を駆け上がった。

改札を出て周りを見回すと壁にもたれている長身の男の子を発見。私は慌てて駆け寄った。


「ご、ごめん!待った!?」

ここでカップルだったら、今来たとこ、と嘘でも言ってくれるかもしれない。

でも、彼とはカップルでもないし、いや、カップルだったとしてもこの男がそんなことを言うようには思えない。


「ふざけんな、てめぇ!俺を熱射病で殺す気か!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


ほらね。

櫻井棗という男は駅の真ん前だろうが人が不審に見ていようがお構いなく怒鳴る奴だ。

遅れてしまった私が悪いんだけど、こんなに怒らなくても・・・。

「さっさと行くぞ!」

棗君は足が長いから一歩が大きくて私は小走りでそれを追いかける。

こんなに怒ってるけど、今日は私のギター選びに付き合ってくれることになっている。



棗君に楽器屋の場所を教えてもらい、結局いまいち理解できなかったけど、なんとか行ってみると言った。

だけど、初めてのギター選びには力強い味方が必要なんじゃないかって馨君が言った。

それはそうだけど、棗君のことを指してるんならそれは無謀。

私のギターを選ぶのに棗君がわざわざ付き合ってくれるわけがない。

「土曜なら付き合ってやるよ。13時に駅。遅れたら殺す」

耳を疑った。

殺すって言葉にじゃなくって棗君がギター選びに付き合ってくれるって言うから。

明日は地球最後の日かも。

殺すという暴言をすんなり受け流した私は相当麻痺している。

「え、いいの?」

「俺も用がある」

怖いような、でも嬉しいような複雑な気持ち。

昨日はなかなか寝付けなくて、気づいたら爆睡していて、起きたら12時半。10分遅刻で到着したわけだけど、良かった、私はちゃんと生きている。