「あのね、あたし審査員に言われてから考えてたんだ、あたし達のバンド名。ライブやるのにバンド名が無いっておかしいじゃん?」
松陽高校軽音部にはまだバンド名が無く、それは故意につけてこなかったのか、単に忘れていたのかわからないが、私達が演奏したのは部活紹介と審査の時くらいだから名乗る機会なんて全然なかった。
それまでもきっと、軽音部でーすって言ってたんだと思う。
「バンド名は、カノン。ってどう?」
咲綺ちゃんの声の効果か、その響きは可愛らしくて一瞬で気に入ってしまった。
私が知ってる「カノン」はパッヘルベルというドイツの作曲家が作った曲名。
小学校の卒業証書授与のBGMがカノンだった記憶がある。多分聞けば誰もが聞いたことある、って思う曲。
「意味とかあるの?」
「カノンを訳すと輪唱って意味らしいんだけど、輪唱って複数の人が時間差で唄い始めて作る曲でしょ。かえるの歌とか」
パッヘルベルのカノンも3つの声部が同じ旋律を追いかけるのが特徴。
咲綺ちゃんは私達1人1人と目を合わせ、柔らかく微笑んだ。
「なんかそれってあたし達みたいかな、って思って」
「カノン?」
まだ咲綺ちゃんの真意が掴めなくて、首を傾げる。
それは他の2人も同じのようで、黙って聞いていた。
「軽音部って良くも悪くも個性的でしょ。でも、バラバラなんだけど、まとまる時はちゃんとまとまって1曲を成功させた。輪唱だってバラバラに唄ってるようだけどちゃんと曲になってる。って思ったら、カノンしかないって思った」
言われてみると、そうだ。
こんなに個性的な軽音部なのに、曲が始まれば、それぞれが好き勝手に動いているようで、ちゃんと周りを見て瞬時にフォローし合う。
それが観客を沸き上がらせて、最高の1曲を完成させる。
カノン。
私達にぴったりなバンド名。
「いいんじゃねぇの、カノン」
「うん。気に入ったよ」
「私達、今日からカノンなんだね」
こんにちは、カノンです。
そうやって名乗る日が待ち遠しい。
カノンのデビューはライブハウスROSEのライブイベントだ。

