カノン



いつものように1人でお弁当を広げていたところに咲綺ちゃんが「一緒に食べようよ」と誘ってくれた。


これが高校生活2年目にして初めての友達とのお弁当。

机をくっつけて他愛ない話をすることをずっと夢見ていた。


机をずらすのが面倒、という咲綺ちゃんには頼んで机をくっつけてもらった。

夢だったの、と言うと「いっくらでも叶えてあげるよ、その夢」と笑っていた。



「軽音部ってことは咲綺ちゃんはバンドマンなんだー。似合うかも」

咲綺ちゃんが軽音部に入っていることを知り、正直安堵していた。

屋上から聞こえてきた歌声は音楽に生かすべきだ、と私ながらに強く思っていたからだ。


「そぉ?でも、まだ人前の演奏はゼロだよ。なんせ、まだ同好会だし。4人しかいないから新入部員が欲しいんだよね。だから、あのポスターにかかってるの!」

拳を握りしめた咲綺はやる気に満ち溢れ、瞳には炎さえ見えた。


「咲綺ちゃんは何の楽器が弾けるの?」

「あたし?あたしが弾ける楽器はバイオリンくらいだねー」

「バイオリン、弾くの?バンドで?」

「バンドでは弾かない弾かない。あたしの担当はボーカル。楽器の練習が無い分ポスター作りとかで部に貢献しないとねー」


パンを牛乳で流し込み、机の上を片付けてポスター作りを再開させた。


「ボーカルなんだー。かっこいいなー、バンドの花形って言うよね」


「どうかなー。ギターの方が花形っぽいけど。主要なメロディ弾いてるのもギターだしパフォーマンスも派手にやれるしね。時には弾き語りなんかもしてオールマイティだよ、ギタリストってのは」


艶っぽく語る咲綺ちゃんからはロックバンドへの熱意と愛情がびしびしと伝わってきた。

「そっか・・・。そうかも」

「そうかもってバンド演奏聞いたことあるの?」

「歌番組で好きなバンドが演奏してたから覚えてて。エドってギタリスト。知ってる?」

「えー!何ー!?スターリンク知ってるの!?」


咲綺ちゃんの響く声は騒がしい教室内でも広がり、クラスメイト達を振り向かせた。

咲綺ちゃんは自分が注目を浴びていることには気付かずに、弾んだ声で続けた。


「スターリンクってあたしが小6の時に解散したバンドでしょ!?日本ではデビュー曲くらいしか売れなかったから知ってる人って少ないんだよねー。バンドやってる人の中じゃ結構人気だけど。もしかして、ふたばバンドやってる?」


「やってないやってない」

首と両手を激しく横に振り、否定した。