カノン




「それでも無理だって」

頑なに拒むカズ君は教室の前で立ち止まった。

ここまでか、と思ったその時、私はとてつもなくいいアイディアを思いついた。

「じゃあ、カズ君がギター練習して1曲弾けるようにして、棗君に聞いてもらうっていうのは?」

カズ君はいつまでたっても簡単にできるパワーコードしかできなかったって棗君が怒っていた。

だったら、いろんなコードを覚えて、できたらテクニックも習得して、1曲弾いてみせたらカズ君の成長は一目瞭然。

棗君は完全実力主義者だから、カズ君の演奏をいい、って思ったら軽音部に戻してくれるかもしれない。

「棗君からカズ君を必要としちゃうような1曲を完成させようよ」

これが私の持てる知恵の全てだ。棗君の特性を理解しての提案だと思う。

カズ君は眉間に皺を寄せながら考えている。

そして、徐々に皺が伸びていくと口元に笑みを浮かべた。

「棗が戻って来てください、一哉様って平伏す姿は大いに興味があるな」

そこまで言ってないけど、まぁいっか。


「そういうことで。練習付き合ってよ、佐伯さん」

「えぇぇ!?」

「何で?そういうつもりで言ったんじゃねぇの?」

とんだ勘違いだ。

カズ君は不思議そうに首を傾げていた。本気でそう思ったらしい。

「ちっ、違うよ!無理だよ、私は。棗君に怒られてばっかりなんだから、人に教えるなんて!」

「何個もコード弾けるんだろ?曲もできるんだろ?佐伯さんができる限りのとこで全然いいよ。個人練習だけだと限界あるだろ。そういう時に佐伯さんのアドバイスが必要なんだよ」

「でも・・・」

「俺を乗せたんだから、付き合ってもらうぜ。俺は決めたんだ。棗に土下座させるって」

だから、土下座はしないと思うんだけどなぁ・・・。


「いいの・・・?私なんかで」

「おう。数学、教え方上手かったし、きっとそういうの得意だよ、佐伯さんは」

根拠のないことを言いながら、最後に満面の笑みを浮かべた。

「じゃ、俺、再テストだからさ。昨日のテスト落ちたんだよねー」

何故か嬉しそうにしているカズ君が手を挙げるので条件反射で手を振ると、カズ君は意気揚々と教室に入って行った。

逆に私は不安でいっぱいだ。