「あっつーい」
僅かな冷たさを求めて咲綺ちゃんは机に両手を投げ出し、顔をその間に埋める。
そのまま溶け出してしましそう。
窓は開けられているのに入ってくるのは生暖かい風ばかり。
クーラーが何で無いのか、この学校を恨みたくなる。
イベントの審査後、私達はそのまま夏休みへ突入した。
なのに、お昼ご飯を食べているのはいつもと変わらない自分達の教室。
「ねぇ、咲綺ちゃん。大丈夫?」
「エアコンがあれば大丈夫なんだけど」
「ううん。そうじゃなくて来週のテスト」
咲綺ちゃんは黙った。
私と咲綺ちゃんが教室でご飯を食べているのは夏休み中に補習を受ける為だ。
他にも数名、クラスがごちゃ混ぜになってこの教室に集められている。
弁解するようだけど、私は補習組ではない。
可も無く不可も無く、中間あたりをうろつく成績をキープしているから実は赤点とは無縁だったりする。
咲綺ちゃんはと言うと、容姿も性格も才能も人が欲しがるいくつもの物を持ち、欠点なんて一つもない完璧人間かと思っていたけどそうでもないらしい。
意外にも赤点まみれという、この事実。
テストで赤点を取った場合、追試になるがそれをも突破できなかった場合、夏休みの補習後、再度追試を受ける羽目になる。
「暑さで朦朧として、勉強なんて入ってこない。あー、唄いたい。あたしも行っていい?部活」
「ダメだよ。午後からは数学でしょ?」
追試組ではない私が学校に来ているのは、昼からの軽音部に参加する為。
審査の結果は明々後日だが、合格したことを見据えて休み中も音楽準備室の許可を取って練習することにした。
私の中ではあのライブハウスの演奏は最高の出来栄えだった。
緊張していたと思われた咲綺ちゃんは音楽が激しくなるにつれて、エンジンが徐々にかかって、得意の飛んだり跳ねたり、狭い舞台を思い切り使っていた。
私も演奏している時は緊張をほとんど感じること無く、いつのまにか首を上下に小刻みに揺らしながらリズムをとっていた。
馨君は最後まで緊張の色なんて見せずにいつも通りの演奏とちょっとした遊びを織り交ぜ、余裕そうだった。
棗君も馨君と同様。
演奏している棗君って、すごくいい顔をしていると思う。
演奏している棗君は口角を若干上げ、鋭い視線は釣り目のせいで変わらないけれど、睨まれる時に感じる怖さは封印されている。
軽音部を作ったのが棗君だと聞いた時は、ちょっと信じられなかったけど、今は納得。
棗君の音楽好きがすごく伝わってくるから。
「終わったら絶対行くから」
「うん。待ってるよ」
「でも、あの部屋もどうにかしないとね。窓もないから暑くて仕方ない。そろそろ死人がでるかも」
夏の練習は専ら、ドアは開けっ放し。
音楽室の窓も開けられているから僅かな風を求めて開けているが、やっぱり暑い。
それよりも、あの狭い音楽準備室を部室だと軽音部に与えるのだから教頭の底意地も相当悪い。
「馨君がスタジオの予約も多めにとっていくからそっちを主にしようって。あそこならクーラーもあるし、音響もちゃんとしてるし」
「あ、いいね」
暑さで弱っていた咲綺ちゃんが少しだけ息を吹き返した。