前回来た時にはライブハウスを狭いと感じた。
いざ舞台に上がってみると、照明のせいで審査員の後ろは暗くてほとんど何も見えない。
そのせいで、距離感を掴めず、どこまでも続いているように思えた。
部活紹介の時とは比べ物にならない緊張感。
あの時は、咲綺ちゃんと馨君の知名度もあって、割と受け入れモードの雰囲気だった。
でも、今はそんな雰囲気を感じられない。
審査員はたったの4人なのに、反応が薄いせいか冷たく感じる。
棗君も馨君も音を鳴らしてチェックをしている姿はいつもの感じ。
緊張しているのは私だけだ。
震える瞼を閉じて、深呼吸をする。
すると、ゴトン、と重い物がぶつかる音とキーン、という耳障りな音が響いた。
「すみません」
目を開けると転がったマイクを屈んで拾う咲綺ちゃんの姿。
丁度、私と向き合うような形でマイクを拾い上げた咲綺ちゃんと目が合うと、舌を出して苦笑いをしていた。
それでやっとわかった。咲綺ちゃんも緊張しているということに。
咲綺ちゃんだってライブハウスは初めてだと言っていた。
表に出さなかっただけで、咲綺ちゃんだって怖かったんだ。
もしかしたら棗君も?馨君も?
そう思ったら、一気に楽になった。
肩の荷が下りるってこんな感じなのかもしれない。
私が背負っていた荷物なんてたかが知れているかもしれないけど、咲綺ちゃんがマイクを落としたおかげでなんだか勇気が出た。
私達の音楽を奏でればいいんだ。
思いっきり、一生懸命に、私達は音色を生み出せば、それでいい。

