カノン



始業式の次の日から時間割通りの授業が始まる。

軽く1年間のガイダンスをやってから早速綺麗な教科書に折れ目をつける。


咲綺ちゃんはガイダンスから熱心に何かを書き取っているようだった。

何をそんなに書くことがあるのか不思議になって、横目で覗くとノートではなく、画用紙にペンを使って絵を描いていた。


8色あるペンを漏れなく使ってカラフルに描かれているのはギターや太鼓、シンバル。

その周りを囲む色とりどりの音符。


私の視線を感じたのか顔を上げた咲綺ちゃんは口元に立てた人差し指を押し付け、口角を横へ引っ張った。


「部活紹介のポスター。出遅れたから必死に内職してんの。今日中にコピーまでしたいから内緒ね」

「吹奏楽部なの?」

「ちっがーう。ギター、ドラム、あとベース。その楽器使うって言ったら軽音部しかないでしょー」

太鼓とシンバルはセットだったのか。


得意気に話す咲綺ちゃんだが、私の記憶が正しければうちの学校に軽音部は無かったはず。


それは去年先輩達がやってくれた部活紹介を見て覚えている。

部活やりたいなー、羨ましいなー、と一通りの部活は自分が入部した場合のシュミレーションをしているので記憶に残っている。

その中で私がギターを弾いたりドラムを叩いたシュミレーションはない。


「何喋ってるー?ちゃんと聞けよー」

「ごめん、先生!」

「すみません」

「余裕そうだから、この問題は佐伯、こっちは丹波な」

「は!?何!?助けて、ふたばっ」

教科書すら開いていなかった咲綺は慌てふためき黒板に向かう私の袖を引っ張った。

「咲綺ちゃんに答えが見えるようにノート持つから、前行こう」

「女神か、あんたはー」

どちらかというと女神は咲綺ちゃんの方だと思うけどね、と心の中で返して2人で黒板の前に立つ。


咲綺ちゃんは問題を解いて先生の方をどうだ、と言わんばかりに振り向くと先生は疑いの眼差しを向けた。


不本意そうだったが、「正解」と言ってそれぞれの設問について説明を始めた。


「ありがとね」

「うん。でも、教科書くらいは開いておいたらいいんじゃないかな。多少はカモフラージュしようよ」

「女神の言うことは、絶対」

ガッツポーズを胸の前で首と共に上下に揺らして教科書を立てた。


それはあからさま過ぎるよ、咲綺ちゃん。