馨君が受付を済ませ、示されたドアを開けると同じく審査を受ける高校生が狭い待合室で楽器の調整や髪型のチェックをしていた。
衣装は高校生限定イベントとあって、原則自分の高校の制服着用。
金持ちばかりの坊ちゃん校や県下では進学率ナンバー1高校の生徒までいて、いかにもロックバンドです、といった風貌の学生の方が少なかった。
「みんな上手そう・・・」
イベント審査の方に思考が向くと、一気に緊張が込み上げてきた。
「見た目にビビッてどうすんの。あたし達はあたし達なりのバンドをやればいいの!」
「う、うん・・・」
咲綺ちゃんの怪力で背中を叩かれ、思わず咽た。
舞台の方で鳴っている重低音が待合室にも響いてくる。
やがて、マイクを通した男の人の声が聞こえてきて、審査が既に始まっていることを知る。
私達の出番は中盤。大抵トップバッターが不利と言われるから中盤と言うのは良くも悪くもない微妙なところ。
そんなことを気にしている私に対して、相変わらずのこの3人の緊張感の無さ。
審査を通過することを確信してる余裕?
いやいや、周りの実力もわからないのに自惚れるような人達でもないだろう。
じゃあ、なんだ、この余裕っぷりは。たまに、私がおかしいんじゃないかと思えてくる。
「ひっひっふー、ひっひっふー」
「なんか生まれるの?」
「落ち着くかな、って思って」
腕を回してみたり弦を弾いてみたり、何かしていないと落ち着かない。
「挙動不審に動くな、みっともねぇ」
み、みっともないですって!?
眉一つ動かさない棗君が憎たらしい。
むしろ棗君はもう少しそわそわしてもいいと思う。
長い足を組んで堂々とする様は高校生とはとても思えない貫禄だ。

