カノン




「咲綺の声、廊下まで響いてるよ」

くすくす笑いながら、穏やかな声。

そうだ、馨君にもちゃんとお礼を言わなきゃ、と振り向いて息が止まった。

「馨くっ・・・!?」

一瞬、誰かわからなかった。

「すごい顔」

3人のリアクションを面白がりながら自然に入って来た馨君。

全員の視線は馨君の頭の方に釘付けで、唖然としている。

「い、いいの!?頭!」

馨君は自分の頭を触りながら笑っている。

「今、軽音部を辞めたら絶対後悔すると思って。それに、いつかは辞めなきゃいけないでしょ?金髪。だったら今かなって」

トップ部分はラフに跳ねているが、耳周りや襟足は短いので金髪のチャラけた雰囲気が封印され、好青年さを醸し出している。


「軽音部はやめたくない」


強い意志を持って馨君は言った。


「それに黒髪ならバイト口も広いし、毛髪にも優しい」

真剣な顔をしていたかと思うと一変しておどけてみせた。

確かにキンキンに染めた髪を持続していった場合、将来馨の髪の毛は悲しい結末を迎えてしまうかもしれない。

教頭の河童オヤジはいいが、馨君の河童オヤジは見るに堪えられない。

「今度は見つからないようにやってよねー」

「もちろんだよ」

軽音部廃部の危機を経験しておいて、全くこの人たちは、と呆れてしまう。

「良かった。馨君が戻って来てくれて」


「だよね」

自信たっぷりに馨君は頷いた。

「俺がいなくなった場合のことを考えてみたんだ」

「うん?」

「棗は口が悪いし、咲綺はキレたら手がつけられない。ふたばちゃんはそれを止められなくてネガティブループに突入する。そしたら、俺が辞めるわけにいかないなって思った。君達問題児をまとめるのは俺しかいないかなって」

「人を猛獣のように言わないでよね!」

「喧嘩売ってんのか」

「ネガティブループって・・・」

何でそんなことまで、知ってるの・・・。

恥ずかしくなって馨君が言うネガティブループに突入しそうになり、直前で踏み留まる。


「俺達4人がいて軽音部。誰も欠けちゃいけない。そうでしょ?」


私自身も含まれていることに安心して、自然と笑みが込み上げてきた。