「また、ここに来てもいいですか!?」

「・・・は?」

ち、違うのか?

そもそも、私はなんて言ったんだ?

棗君の視線は相変わらず怖いし、何を考えてるかわからないし、頭は混乱していて、どうしていいかわからず、自分の言った言葉すらわからない。

頭がくらくらとして、眩暈さえ起こしそうになった頃、棗君から漏れたのは、

「ふっ・・・」

え・・・?

顔を上げると棗君は右手で口を覆い隠していた。

今、笑ったの?

「意味わかんねぇ」

いつもと変わらない棗君だけど、口元が緩んでいるように思える。

一瞬和らいだ表情が私の思考を停止させた。

「別に、来ればいいじゃねぇか」

「わかんなくて・・・どうやって仲直りすればいいのか・・・」

「仲直り?」

「うん。棗君と気まずいままになってたから・・・。このまま終わるのは嫌だと思って」

未だ棗君は鋭い視線を私に向けてくる。

うぅ・・・、どうしてそんな目で見つめるの?

見つめ合いが持久戦に突入し、逃げ出したくなるのを必死に堪えていたが、棗君の方が先に視線を逸らした。

「仲直りって、俺も良くわかんねぇけどな」

そうだった。

棗君は謝ったりしないから、馨君のように自然と仲直りしてるか、カズ君のように喧嘩したまま、の両極端しかないんだった。



棗君はおもむろに立ち上がり、立てかけられたギターケースを持つと私に押し付けた。


「弾けば、ギター。それでいつも通りだろ」


ぶっきらぼうに渡されたギターケースを思い切り抱きしめ頷くと、顔を上げた時に棗君の横顔が柔らかく見えた。

一瞬しか見えなかったけど、それを脳裏に焼き付けて赤いストラトキャスターを取り出した。

ソファでは棗君が黒のレスポールから太く甘い音を奏でながら、譜面にそれを落とし込んでいく。


手放したくなかった日常は、棗君の短すぎる言葉で嘘のように一瞬にして元通りになった。


棗君の言葉は確かに短くて、真意を図るのは難しい。


ただ、ひとたびその言葉の意味を理解すれば、棗君がただの冷血な人間でないことがわかる。



棗君のこと、もっと理解できたらいいのに。


そうして思い浮かべたのは、棗君が一瞬だけ見せた笑顔だった。