カノン



身が縮むほど寒かった冬は去り、新学期を迎えた。


真新しい制服に身を包んだ新入生達は希望や未来に満ち溢れていた。

自分の1年前はどうだったろうか。

多少の期待はあったかもしれない。

小さな希望や未来に心をときめかせながら、教室に入った。

しかし、中学時代を知る男女が目に入った瞬間私の未来は決まったのだ。




玄関先や廊下の掲示板には部活動紹介のポスターが所狭しと貼られていて、目にした新入生は立ち止まって「何部に入る?」と友達同士で相談していた。


これも1年前と同じ光景。

私は去年と同じようにポスターを視線の端に追いやり、その場を足早に過ぎ去った。


名前が並んだ模造紙から佐伯ふたばの文字を見つける。

教室に入ると既にいくつかのグループができていた。

こんな光景を見ても私は出遅れたなんて焦ることはない。


1年間友達作りをすることなく、浮いた存在だった私は最初からいないものとされていたから。



自分の席を見つけると、そこには知らない女子が座っていて、後ろの女子と話をしていた。

話の邪魔をするようなことはしたくない。

かと言ってやり過ごす方法も知らない。

玄関に戻って今度は遠回りのルートでここに戻って来ようか。



「何うろうろしてんの?」

振り返るとセーラー服の襟から伸びる白い首元が見えた。

視線を上げると思わず「あ」と声が漏れた。

「え、何?」


黒く長いさらさらとした髪を撫でたり制服を叩いてみたりすると、彼女は首を傾げて大きな瞳を丸めていた。


「屋上で唄ってた人・・・?」

「・・・え、ごめん。誰?会ったことあったっけ」

こんな綺麗な人が自分のことを覚えているはずがない。

思わず発してしまった言葉を撤回したい、と強く念じながら必死に言葉を繋げた。


「いや、教室の窓から見えたことがあって・・・」

「ほんと?んー・・・ごめん、覚えてないや。これから覚えるから許してよ。名前何?」

「佐伯ふたばです」

「ふたば?オッケー覚えた!あたしは丹波咲綺」


彼女が笑った瞬間、取り巻く雰囲気ががらりと変わった気がした。

女の私でもどきりとする程の魅力だ。

やけにあっさりとした対応に、ネガティブ全開の私の考えが馬鹿らしいとさえ思った。

陰をも照らす、太陽のような存在。

ありきたりな表現かもしれないが、それが丹波咲綺への第一印象だった。