スタジオのあるフロアの扉を開けると麻生さんがすぐに気づいて「いらっしゃい」と声をかけた。

カウンターを間に挟んで麻生さんの前に立っていたグレーのパンツスーツにストライプのシャツを着た女の人もこちらを向いて、笑顔で手を振った。

その笑顔に見覚えがあり、考えていると馨君の一言で納得した。

「なんで姉さんがいるの」

言われてみればどことなく面影がある。笑った時の笑窪なんてそっくり。

女版の馨君だけあって美人だし、スタイルもいい。

咲綺ちゃんほどではないが、身長もそこそこあるし、ショートカットなせいもあって凛々しさも感じられる。

「イベントのポスター、貼らせてもらいに来たのよ」

ほら、と真後ろを指差すと、「ハイスクールバンド」という文字がでかでかと打たれ、赤いスポットライトを浴びながらブレザー姿の四人組が演奏しているところを下のアングルから撮ったような構図のポスターが貼られていた。

「うちが主催してるからね、これ。宣伝よ、宣伝」

前に咲綺ちゃんがが馨君の姉は音楽雑誌の記者だと言っていた。

ということは、音楽雑誌が企画したイベントだったのか。

「馨君達も出るっんだってね。頑張って。結構いるんだ、ここの常連の高校生も出るって子達」

「狭き門ってこと?」

「そうね。応募総数も予想を超えたし。高校生だけだと思って舐めてたら審査通らないわよ」

「別に舐めてないよ。それに、手なんて抜いたらうちの鬼がなんて言うか」

馨君が苦笑いすると、麻生さんも馨君のお姉さんも同じ人物を思い出してか納得、というように同時に頷いた。私も同じく頷く。

「あなたがふたばちゃん?」

「そうですけど・・・、どうして?」

まだ名乗っていない私の名前を呼んだお姉さんを少し警戒しながら首を傾げた。

その警戒を他所にお姉さんは薫君とほとんど同じ笑顔で近づいて来た。

そして、お姉さんは自分の顎に手を添え、私を品定めするかのように下から上、上から下、と視線を巡らせた。

「あ、あのー」

視線に耐え切れなくなって、声をかけると「ごめんなさいね」と軽い口調で謝った。