カノン



ピアノもギターも並行して練習しているものの、それは思ったよりもハードなことだった。

まず、ピアノコンクールとイベントの審査の日程に一週間ほどしか差がないこと。

ギターの練習に力を入れなくてはならないが、ピアノだって切羽詰まる状態なのだ。

朝早く起きてギターの朝練、レッスンが無い日はまたギターの練習をし、帰ったらピアノの自主練習。

レッスンがあれば遅くまでピアノを弾き続ける。そんな日々が何日も続いた。

その間にテストもあり、勉強していると嘘をついてる分、赤点なんて取れるわけがなかったのでテスト三日前の部活禁止期間は必死で勉強し、とりあえず現状維持を保った。


寝る間も惜しんでギターとピアノの練習を進めているわけだが、疲労が蓄積してくると、ピアノの精度にも影響した。

「どうしてこんなこともできないの!毎晩練習してるから感心していたのに、全然じゃない!練習時間だけ多くてもできなきゃ意味がないのよ!」

母は完全な結果主義。

練習量をどれだけこなしても、結果が伴わないなら無意味。母の言い分は最もだ。

プロのピアニストが練習を頑張ったところで観客が感動しなければ意味がない。

それを母は痛い程知っているから、私に結果を強要する。

小さい時からそれは変わっていないけど、その時はちゃんと母の期待に応えられていたから、なんてことはなかった。

でも、今は結果重視の母の言葉が辛い。

「もう一度やりなさい!」

棗君にも毎日怒鳴られるが、その度に弾ける実感を味わい、嬉しくなるから次も頑張れた。


でも、何故かピアノは言われた通りにやったつもりでも上手くいかない。


「何なのこの指!?」

手首を痛いくらいに思い切り掴まれ、顔を歪ませた。

弦で切れてしまった指の一部をを気味の悪い虫でも見るかのように母は悲鳴を上げた。

「何をやってるの、ふたば!指がピアニストにとってどれだけ大事なものか教えているでしょ!?」

「紙で切っただけだから、すぐに治るよ」

「コンクールが近いんだから細心の注意を払うのよ!」

ヒステリックになっている母親を宥めるのも一苦労だ。

気付かれないように溜息を吐きながら、鍵盤に指を滑らせた。