カノン



「ブリッジミュート」

「・・・何したの?」

「右手の側面が弦に触れてる。その状態で弾くとこういう音が出る。お前の今の音だと単調すぎるから歯切れの良さを出す効果だ」

棗君がやっていた通りにブリッジ部分に掌の側面を押し当てて弦を鳴らしたが音が全く鳴らない。

「強すぎ。もっと軽く押さえろ」

押さえる、というより触れるくらいの感覚でを行うと、今度は棗君の音のように歯切れの良い音ではなく、音におまけがついてくるような、だらしない音になってしまった。

「ブリッジ側抑えすぎ。ここ」

棗君の手が伸びてきて私の手を取り、正確な位置に誘った。

何で棗君の手はこんなに冷たく、毎日ベースとギターを弾いているのにこんなにも綺麗なんだろう。


「その位置で軽く触れて弾いてみろ」

女の私より綺麗な棗君の手を眺めていると、「さっさとやれ!」と罵声と共に我に返された。


言われた通りに弾いてみると、棗君が弾いたような音にやっと近づいた気がする。

「あとは慣れろ。単体でミュートできるようになったら普通にコード弾いてる間に混ぜてみろよ。音楽らしくなるから」

「やってみる」

棗君は頷いてまた定位置に戻って作曲を続けた。

私は感覚を忘れないうちに何度も弾いてみる。

アロンアルファで固められた指の痛みは半減していて、棗君が嫌がらせをしたわけじゃないことを理解した。


調子の乗ってコードの間にブリッジミュートを混ぜてみたが、右手が素早く正確な位置を押さえることができず、ミュートされているんだか、音を出したいんだか、どっちつかずの中途半端な音になる。


棗君はその後アドバイスをくれることもなく、黙々と作曲作業に打ち込んでいた。

私はひたすらブリッジミュートを練習しつつ、審査で演奏する曲の練習も行った。

部活紹介の時にはテンポが遅れ気味で全体のテンポも遅らせてしまった。

次はそういったことも審査に響くかもしれない。

私のせいで不合格なんてことになりたくない。

アロンアルファだらけの指で必死に弦を押さえ続けた。