カノン




放課後練習できない分をどこかで補わなければならないと思い、毎日の朝練を開始した。

早朝に音楽準備室に行けば必ず棗君が居て、作曲をしていた。

私にはバレてしまったから隠しもせずに堂々としたものだ。


でも、放課後になるとギターはどこかへ隠し、作曲していることを咲綺ちゃんや馨君に悟られないようにしている。

私も、棗君の怒りの雷が落ちることを恐れて、二人には内緒にしている。


興味本位に棗君が書いている紙を私が覗こうとすると、決まって睨みつけてくる。

棗君がどんな曲を書くのか興味があるのに。



大分コードの押さえ方が定着し、余計な音が鳴ったり、逆に鳴らない音があったりすることがなくなってきた。

これまでに何度も左手の指の皮が剥け、指先が赤くなって痛かったが、土日以外毎日弾くようになって更に悪化してきた気がする。


指を休めた時に良く聞こえてくるのは暖かいレスポールの音。

日に日に長くなっていく棗君の曲に耳を傾けた。

「聴いてんじゃねぇ」

この距離で聴くなとは無理な話だ。

「自分のやってろ」

「ちょっと休憩。指が痛くて」

「最初のうちは仕方ねぇ。我慢しろ」

絆創膏なんて貼れないから我慢するしか方法は無い。

指先さえ固くなってくれれば痛むことは無いらしいが、それがいつになるのかわからない。


指には弦の跡が食い込む様にして残っている。

これも時間が経てば、元には戻るのだが、最近切れた中指の影響は大きい。


棗君はギターをソファに立てかけ、私の目の前に立つ。


「な、何・・・?」

「指貸せ」

「え・・・?」

苛立ったような顔つきをした棗君は私の左手を取る。棗君の綺麗でひんやりとした冷たい手にどきりとした。

取られた掌は開かせられて、皮の剥けた指にはいきなりアロンアルファを垂らされた。

アロンアルファ!?

「な、何するの!?」

慌てて手を引込めると、アロンアルファが床に垂れ落ちた。

「ボケ!急に動くな!」

「だ、だっていきなりアロンアルファかけるから!」

私が棗君に何をしたって言うんだ。

こんな仕打ちを受けるようなことは何一つしていないはずだ。

「応急処置してやってんだろ!てめぇ、さっさと指出せよ」

「応急処置・・・?」

再び手を取られ、左手の全ての指アロンアルファがかけられる。ねっとりとして気持ち悪い。

「俺は最初の頃こうやって指固めてた。そしたら痛さがマシになる」

「嫌がらせ、かと思った・・・」

「違ぇよ、ボケ」

時間が経ち、指が突っ張ったような感覚がする。

右手で触れてみるとアロンアルファが固まって指先をコーティングしたようだ。


「次ブリッジミュートできるようにしとけよ」

「え・・・?」

聞き慣れない横文字に困惑していると棗君は苛立ちの表情を見せる。

棗君は立てかけられていたギターを取り、抱えるとコードEを弾いた。

弦を抑える左手は何も動いていないのに、右手を動かすたび、交互に違った感じの音がする。

同じ音なのにメリハリを感じさせる。