「そもそも、ギターやりてぇなんて言ってねぇだろ。ベースは気に入ってる」
「じゃあ、何でギター弾いてたの?」
弾きたい気持ちはあるが、言い出せず誰もいない場所で毎朝隠れてギターを弾いているのかと思った。
・・・棗君に限って言い出せないことはないか。
「お前に関係ねぇ」
短く一蹴。
こうなってしまっては棗君から聞き出すことが難しいことを既に学んでいる。
潔く私は諦め、所定の位置に置かれたギターケースを手にしようとすると、ギターケースの下に角が少し入り込んでいる白い紙が目に入る。
首を傾げながらそれを摘み上げ、裏返しにするとそれは手書きの譜面だった。
「これ、棗君の?」
私が入って来た途端に紙を鞄に仕舞い込んでいた。
その時かその前かわからないが、一枚だけ落ちてしまい、ギターケースの下に入り込んでしまったんじゃないか。
「ちっ、よこせ」
目つきは鋭いものの、慌てていることが窺える。
むしり取る様に私の手から紙をひったくるとそれも鞄に強引に仕舞った。
「棗君も曲、作れるんだね」
「るせぇ、勝手に見やがって」
黒髪に隠れきれていない耳の半分が少し赤みを帯びていて、驚いた。
「恥ずかしいことじゃないのに。作曲できるなんてすごいよ」
「お前、咲綺にも馨にも言うなよ」
「どうして?さっきのって、夏休みのイベント用じゃないの?」
「別に」
「棗君は言わなくて良かったの?」
「いい。自分で納得いくもの作れるかわかんねぇし」
棗君にしては弱気な発言だ。
恥ずかしがり、自信が無い棗君を見ていると、傍若無人な態度も薄れ、普通の男子高校生だったことを実感させられる。
「何で笑ってやがる。馬鹿にしてんのか、てめぇ」
「え!?違うよ!」
「絶対笑ったろ。殺すぞ」
さっきの可愛らしい棗君は一瞬で影を潜め、いつもと変わらぬ鬼のような棗君が私を睨み付けた。
棗君のとてつも無く低い沸点に到達しないようにしなければならないのは、至難の業だ。

