カノン



コンクールが近づくにつれ、レッスンをする母親に鬼気迫る物を感じ、レッスンの日数もほとんど毎日になった。

これまでは海外出張などあり、軽音部に顔を出せる日の方が多かったが、コンクールが終わるまでは母も付きっ切りでレッスンをする決意をしたようだ。


でも、夏休みに入れば馨君が言っていたライブイベントが待っている。

まだ技術の足りない私にとって、ギターの練習量が全く足りていない。


今日だって少し顔を出したら帰らなくてはレッスンの時間に間に合わない。


頭を抱えていると、馨君がイベントの申し込みを済ませてきたことを報告し、日程と概要を伝えた。


「審査も本番も演奏はコピー、自作どっちでもいいらしいけど、俺達に自作曲ないし、審査はコピーでいいよね」

「ねぇ、あたし、曲作ってみていい?」

様子を窺うようにして遠慮がちに申し出る咲綺ちゃんに一同目を丸めた。

「咲綺、作曲できたの?」

「勉強はしてたの。それと、実はギターも練習してた。弾けたら作曲するの楽だと思って。ほら、あたしバイオリンやってたじゃない?ギターってちょっと似てるかなって思って」

「へぇ、すごいじゃん。やってみなよ、咲綺。ね?」

最後に私と棗君に同意を求めると、私は迷わず頷いた。

棗君も「やれよ」と承諾したのを見て、咲綺ちゃんは「ありがと!」と見るからにはしゃいでいた。


馨君が軽音部を引っ張っているの明らかだが、こういう時の最終判断は棗君になることが多い。

棗君が良しとすればそれが軽音部の決定事項となる。




「ただ、初めて作るからって俺は甘い目で見ねぇ」

「上等。半端な物作る為に言ったんじゃないよ、あたし」

「ならいい」

作曲に時間が欲しいからと本番で演奏する方の曲を作ると咲綺ちゃんは言い、その為、審査で演奏する曲は部活紹介でも演奏した邦楽に決定。


審査まで1ヶ月を切っていることと、本番の演奏の練習を早めにやっておきたいということで四人でも弾いたことのあるその曲を選んだ。

「もう、イベント出る気満々だね、みんな」

「当たり前だよ。あたしはあの舞台で絶対唄うって決めたんだから」

咲綺ちゃんはこの前のライブを思い出してか、じっとしていられず足踏みをばたばたとして棗君に怒られた。

「審査の曲で手ぇ抜いて落ちたら元も子もねぇんだからな」

「わかってるよー」

「月曜日にスタジオ取ってあるよ」

「流石、馨。準備いいね」

「部活紹介よりもいい演奏にしないとね」

大きくうなずいた時に腕時計が目に入り、慌てた。


「ごめん、私帰るね」

レッスンの時間が迫っている。

やる気に満ち溢れた三人に比べ、私の中ではやる気と不安がせめぎ合っていた。