カノン




音楽準備室に飛び込むと、棗君は目を少し驚かせたが一瞬のことだった。

すぐに私から興味を無くした棗君は定位置に座り、ベースを膝の上に置いた。


「棗君、いつもより遅かったんだねー」

「は?普通だろ」

「そ、そうだね」

私の勘違いを気にするような人では無いと思うが、できればさっきの時間まで戻りたい。

棗君が私を助けるわけないじゃないか。

単に棗君の通行を妨害していたから散らしただけだ。

何でそんなことにも気づかない、私!


「そこで挙動不審に動かれると気が散る」

「あ、すみません」

そそくさと棗君の視界から外れ、自分もギターを手にしてチューニングを始める。


「何か、合わせるか」

唐突の提案に呆気にとられていると、棗君は早速肩にベースをかけ、アンプに繋いでいる。

ついでに、私が繋げるアンプも目の前に置いた。

「え?」

「曲。お前の好きなあれでいいや。さっさとチューニングしろ。すぐアンプに繋げ」

「え?えぇ?」

「俺を待たせんな」

良くわからないが、急かされるがままに慌てて準備をし、棗君と一曲演奏した。


「いつも言ってるだろ!思い切り弾けって!振りが甘ぇんだよ!」

いつもと変わらず罵声を浴びるが、思い切り弾いた甲斐あって心が晴れやかになった。

そして、ふと気づいた。


「だからなぁ、お前は・・・」

「もしかして、棗君・・・、励まそうとしてくれてる?」

恥ずかしい確認をしているのは私も重々承知だったが、棗君が私の顔面を右手で掴んだ瞬間にそれは確信に変わった。


「ふ・ざ・け・ん・な!」

顔を掴まれ、そのまま力を込められると頭が締め付けられて冗談抜きで痛くて手足をばたつかせた。

「い、痛い!痛い痛い!ほんとに砕ける!」

「ふざけたこと言うくらいなら砕けろ」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!もう二度と言いません!」

懇願してやっと解放されても、頭痛が少し残っていた。


「同じコードを何度も間違えんな!もう一回やれ!」

「すみませんでした!」

余計な確認をしたせいで、棗君の火に油を注ぐこととなり、咲綺ちゃんが来る頃に私は疲れ果て、給水タイムで入れ違いに外に出た。