カノン



日直だから行ってて、と不貞腐れた咲綺ちゃんに手を振られながら、部室へと向かう途中、帰りもせずに廊下で話している三人組を見つけて嫌な予感がした。

避けて通りたいところだが、音楽室へはそこを通らずしていけない。

できるかぎり壁に寄って通り過ぎようとすると、案の定一人が声を大きくした。


「体育さぼらないでくださーい」

他の二人がくすくすと笑い、周りも憐れむ様な視線を送ってくる。

鞄のベルトを強く握りながら素通りしようとすると、また一人が聞こえる様に言う。

「目当ては誰ですかー?馨君?棗君?咲綺の金魚のふんさーん、聞いてますかー?」

今度は笑いが堪えきれなかったのか、三人で爆笑して楽しんでいる。

私の大嫌いな音だ。酷い、不協和音が頭の中をガンガンと叩く。

強く握っていた手が震え、顔が熱くなっていく。

笑いながら何かをまだ喋っていたが、その不協和音が最高潮に達した時、握っていた鞄を渾身の力で三人に向かって投げつけると悲鳴が上がった。


「そんなんじゃないッ!!適当なこと言わないで!!」

「被害者ぶんなよ!お前が中途半端なことしてるからだろ!!」


的確なことを言われて押し黙った。

抑えきれなくなってしまったが、今まで黙って耐えていたのは私のも非があるからだ。

中途半端なことをやっているのは自分が良くわかっている。

「何とか言えばー?」

「謝れー。謝罪!謝罪!謝罪!」

三人は大声で手を叩きながらコールを始めた。

私は何も言えなくなって拳を握りながら俯き、「ご」と謝罪の言葉を口にしようとした時、低い声が煩わしそうにそれを遮った。



「うるせぇ。邪魔だ、どけ」



見上げると、棗君が眉根を寄せながら廊下を歩いて来るところだった。

棗君に睨まれ、息を吸うのも忘れたかのような三人は凍りついたまま棗君が目の前を通る姿を凝視していた。


「あ、ありが・・・」

「何突っ立ってんだよ。邪魔」

私の目の前で立ち止まった棗君を見上げ、咄嗟にお礼を言おうとするとさっきと変わらぬ口調で同じ言葉を吐いた。


慌てて避けると、相も変わらず不機嫌そうな棗君は何事も無かったかのように立ち去った。


棗君の姿が見えなくなって、やっと我に返り自分がどれだけ恥ずかしい勘違いをしたのか思い知ってしまった。

こんなところ、一秒でも早く逃げたい一心で未だ時が止まっている三人の足元から鞄を引っ掴み、全力疾走で逃げ出した。