カノン




「無いよ、そんな才能。あたしは無我夢中で唄ってるだけだもん」


確かに、スタジオ練習でも唄い続ければ、咲綺は汗だくで楽しみながらも必死さを感じる。

部活紹介の舞台は勝手に体が動いてしまったと言っていたが、それが咲綺ちゃんの無我夢中さを表している。


「演奏に技術が伴っていることは大事だけど、それ以上に気持ちが大事。観客に伝えたい強い気持ちがあれば観客はそれに応えてくれるはずだよ」

咲綺ちゃんはいつも必死に伝えようとしているのか。

それを周りが感じ取っているから咲綺ちゃんの周りには人が集まってくる。


「私ずっと、咲綺ちゃんのこと、羨ましかった」

私が呟くと、咲綺ちゃんは照れ隠しに笑いながら背中を叩いた。

相変わらずの力の強さだったが、数回咽ただけて落ち着いた。

「美人で才能があって、でもそれを鼻に掛けない。咲綺ちゃんだから何でもできちゃうんだって」

「普通過ぎてがっかりした?」

咲綺ちゃんは笑いながら茶化してきたが、私はそれを否定した。

「咲綺ちゃんは咲綺ちゃん、って思ってた自分が恥ずかしくなった。私は今まで自分がダメなところを周りのせいにしていた」

私が一人でいなくてはならなかったのは、私のせいだ。

ピアノや母親のせいにして、自分からは何もしてこなかったからだ。



「私、今まで観客に何かを伝えようなんて考えてもいなかったよ」


間違えないように弾かなきゃ、とかリズムが遅れないようにしなきゃ、とかギターを弾くことに必死で、一番独りよがりだったのは自分だ。


自由を求めて唄い始められたロックバンドのように、歌にはいつも演者の強い想いが詰まっていた。

空っぽの歌なんて誰も聞かない、見向きもしない。


「じゃあさ、ふたばもちゃんと伝える演奏しよう。上手く弾こうっていうより、ちゃんと伝えよう、って思えば自信なんていらないよ」


再び背中を叩かれ、よろけると咲綺ちゃんは満足そうに笑っていた。