カノン



扉を開けた瞬間に飛び出してくる激しい音が体を揺さぶる様に叩いてきた。

心臓に鈍い重低音が響く度に自分の体が他の物に支配されていくかのような錯覚になる。

扉が占められると、ライブハウスだけが現実から切り落とされたように揺れていた。



最初に見えたのは揺れる黒い影。それがリズムに乗っている観客だということにはすぐに気が付いた。

いくつもあるライトに照らされた壇上で汗だくになりながらギターを掻き鳴らす男の人。

ボーカルが頭の上で手を叩くと観客がそれに合わせる。

ベースがその場で頭を揺らしながら指を操る姿は少し、棗君を思わせた。

キーボードはコーラスもやっているようだ。手元を見ずに観客の様子を眺め、音楽を楽しんでいる。

ドラムの手さばきは圧巻だ。人間がこんなに早く腕を動かせる物なんだ、と唖然としてしまう程に何が起こっているのかわからなかった。

「すごいね・・・咲綺ちゃん」

呟いた声は咲綺ちゃんには届かなかったようだ。

隣を見ると咲綺ちゃんは嬉しそうに観客の一員として手を上げて揺れている。



心臓を叩くようにに響く音楽。

耳だけじゃなくて、体全体が今奏でられている音楽に支配されている。

このバンドと観客は赤の他人のはず。それなのに、生まれるこの一体感は何だろう。

私が感じた一体感とはまた違った感覚。


初めて聞いた曲なのに体が勝手に動く。

この音によって体が支配されているから、逃れようもない。

私は体が動くままに奏でられる音楽を貪るように聴き続けた。