咲綺ちゃんの言った通り、馨君のバイト先とスタジオは目と鼻の先で、道を一本挟んだだけだった。
どこにでもあるチェーン店に入ると同じくらいの歳の女の人が私達を席へ案内してくれた。
「どーしたの?」
馨君は不思議そうに水の入ったコップをそれぞれの前に置いた。
「ふたばが馨のバイトに興味を持ったみたい」
「ほんと?どう、似合う?」
馨君は手を広げて見せた。腕まくりした白いシャツに黒く長いエプロンをしている。
スマートな馨君には良く似合っていたので正直に伝えると、馨君は笑窪を浮かべて笑った。
「あたし、チーズインハンバーグ!ご飯は大盛りね。あと、ポテトも食べたいな」
「お腹空いたのちょっとじゃなかったの?」
「メニュー見たらお腹空いてきちゃった。ふたばも頼みな」
「えーと、私はデミグラオムライスで」
馨君は店員らしく、丁寧な口調で注文を繰り返し、最後に「少々お待ちください」と礼した姿はしっかりと板についていた。
「最近、女子高生の間でここが人気なんだって。ただのファミレスなのに」
ここから遠く離れた高校の制服を着ている女子達も目立つ。
ホールに馨君が出てくれば、それを直様察知した女子達が視線を集中させる。
馨君がキッチンに引っ込むと休憩中、と言わんばかりに談笑を交わしていた。
「馨君がいるから?」
「あ、良く分かったね」
少し観察していれば容易にわかる。
女子高生どころか年上のお姉さん達も馨君目当て来ていることが伺える反応だ。
「ほらほら、見て」
咲綺ちゃんが指差す方を見ると、女子高生三人組みと話をしている。聞き取れたのは「彼女いるんですか?」という質問だった。
どうやら、本当に馨君目当ての子達も少なくないらしい。馨君が首を振ると、彼女たちのテンションは上がった。
「また馨の彼女が増えそうね」
「今、首振ってたよ」
「本当の彼女はいないってことでしょ。不特定多数ならいっぱいいるもの、馨は」
「そ、そうなんだ・・・」
「あ、引いた?単に断れないだけだよ、馨は。可哀想って思っちゃうみたい。私にしてみたら、変に期待させる方が可哀想って思うけどねー」
馨君は女子高生から小さな紙を受け取っていた。
それに彼女の連絡先が書かれていることは容易に想像できた。

