カノン



「馨君って何であんなにバイトしてるの?家が貧乏、とか・・・?」

馨君が出て行った方を眺めながら、咲綺ちゃんになんとなく訊ねてみた。

「馨の家は普通の家計だと思うよ。馨は自分のドラムセットが欲しいんだって」

「でも、置けないよね・・・」

音楽準備室を見回せば、誰が見ても無理難題であることは確定。

そもそも何であんな大きなソファなんて置いてるのか不明だ。

「あのソファって前からあったものなの?」

「いつの間にか棗が持って来てた。音楽室の椅子じゃ固くて座ってられないとか言って」

固くて座れないって、今までどんな椅子に座ってきたんだろう。

やっぱり、どこかの王子とかそういう類の人種かもしれない。

そうでないと棗君の言動には納得できない。


「まぁ、だからドラムも強行突破でしょう。持って来ちゃってごめーんね、って直訴するとかね」

軽くこんなことを言うから軽音部って恐ろしい。


「自分でお金貯めてるなんて偉いね、馨君。何のバイトしてるんだろ」

「この前行ったスタジオの近くのファミレスだよ。あそこ、学校からも駅からも遠いから見つかり難いと思うし、スタジオ近いから寄ったりしてるんじゃないかな。今から、行く?茶化しに」

「え、邪魔しちゃ悪いよ」

「ちょっとお腹も減ったじゃん?あたし、放課後の寄り道ファミレス好きなんだよね」

「寄り道・・・」

制服姿でコンビニ寄って肉まん食べ歩いたりする、あの憧れの行動。

想像だが、鮮明にその光景が浮かんできてはにかんだ。

「行きたい!」

「よーし!棗は?」

「いい」

雑誌から視線を外さず、短く答えた棗君を残して私と咲綺ちゃんは馨君を追いかけてバイト先へ向かった。