「こういう仲介役って必要なのよ。棗もあたしも本能のまま生きてるから」
「お前と一緒にするんじゃねぇよ」
「本能のままでしょ。何よ、その眉間の皺。少しでも隠そうとしてよね」
「元々だ」
「あーあ、棗が怒鳴ったりしなければなぁー」
「しつけぇな、お前は」
確かに、いつもここで割って入るのが馨君だ。
でも白熱していく二人の喧嘩に入って行かない馨君をちらりと窺うと、拗ねたようにふいと視線を外された。
「俺は何もしないよ。ふたばちゃんが怖がるからね」
え、うそ。
「ご、ごめん。馨君。もう怖がらないよ」
「ほんとかなー」
「ほんとだよ。絶対!馨君がいないと軽音部はすぐに破滅しちゃうよ」
「んー、どうしようかなー」
どうしよう、どうしよう。
私じゃこの二人は止められない。
一歩進めては一歩戻り、一歩進むを繰り返しておろおろと頭を抱えていると後ろからくすっと笑い声が漏れた。
「ごめん、ふたばちゃん。面白くてつい意地悪しちゃった」
馨君は笑いを堪えながら、私の頭をぽん、と撫でてから二人が喧嘩している間に割って入って行った。
棗君の言うことにも一理あると実感した。
馨君はとんだ策士のうえ、敵に回したら棗君より怖い人なのかもしれない。
もちろん、これは心の内に秘めておこう。
「そろそろ次の目標でも決めようよか」
「次は文化祭?ずいぶん期間が空くな」
「できれば夏くらいに一個演奏やりたくない?」
「夏?そういえば、姉さんが夏休みに高校生バンドを集めたライブイベントがあるって言ってったけど、訊いてみる?」
「訊いて!それ出よう!」
「一応審査あるらしいよ?出れるの五組だし」
「通ってやるに決まってんでしょー!棗、やろーよ!」
「いんじゃね」
「え!?ライブイベント!?学校じゃないの!?」
「ライブハウスのイベントだよ。この前行ったスタジオの近くにあるんだ」
そんなことを咲綺ちゃんも言っていたような気がするが、ライブハウスとなると知らない人ばかりということになる。
見知った生徒達の前で演奏するのも吐きそうなくらい緊張したのに、その次が知らない観客の、それも他のバンドもいるなんて。
今度は本当に吐く。
「悪いけど、俺はこれからバイトだから。イベントのこと、姉さんに訊いておくよ」
そう言って馨君は爽やかに去って行った。

