噂をすれば、勢い良く扉が開いた瞬間、馨君が「おめでとう!軽音部へ昇進でーす」と報告した。
「部室は?」
「それは無理って」
「何で!」
「四人なら準備室で十分だろって。ついでに教頭に早く黒くしろって説教までされちゃったよ。地毛って言ってるのに全然信じないんだもんなー」
そりゃあそうだろう、とフォローする余地もない。
そんな日本人らしい名前をして、顔をして、言葉を喋っているのに金髪が地毛なんて堂々と言える馨君の度胸が末恐ろしい。
「教頭め。断固としてあたし達の邪魔をやめない気か」
「教頭先生が邪魔してくるの?」
「なにかと口うるさいんだよ、あの教頭。スカート短いって言うけどもっと短い奴いるだろって!バンドなんてちゃらちゃらした音楽やってるからお前は馬鹿なんだ、とか言われたこともあるし」
「教頭はロックを音楽と思ってないみたいで毛嫌いしてるんだよね。本当は軽音部発足なんて阻止したかったと思うよ」
うちの母親みたいな人だな。
咲綺ちゃんは怒りが治まらないのか、地団駄を踏んでいる。
「それでも良く部活として昇進させてもらえたね?」
「承認するのは校長だからね」
「馨に任せておけば安心だって。口上手いから」
「口が上手いって、もっと言い方あるでしょ」
私はまんまと馨君の口車に乗せられ、入部したのだから納得せざるを得ない。
巧みな話術で駆け引きをしてきたに違いない。
「ふたばも気を付けなよ?」
「きっと私は勝てないと思うよ。馨君には」
「ふたばちゃんまで酷くない?」
「違うって。教頭の嫌味」
咲綺ちゃんは笑いを堪えながら馨君の反応を見て楽しんでいた。
慌てて私は頭を下げて謝罪する。
「ふたばちゃんは大丈夫でしょ。模範生なんだから」
さっきのことは気にしている風ではない馨君に胸を撫で下ろした。
「安心してるとこ悪いが、あの笑顔が心の底から笑ったもんとは限らねぇぞ」
棗君は立ったついでに私の耳元で悪魔の囁きをして素通りした。
「ちょっと、棗。ふたばちゃんの俺への不信感が増したらどうしてくれんの」
「俺は忠告してやったまでだ。何でも信じそうだからな、こいつ」
「そんなこと無いよ、ふたばちゃん。俺は全然気にしていないから」
私の顔を覗き込んで馨君がフォローしてくれるも、菩薩のようなその笑顔を直視できなかった。
「勘弁してよ、ふたばちゃん」
弱った声を出す馨君の背中を咲綺ちゃんが笑いながら叩いて励ます。

