「何でよッ!」
涙が治まる頃、咲綺ちゃんに促されながら音楽室にやって来ると、いつものように音楽準備室のソファに座る棗君がいた。
いつものその光景を見て咲綺ちゃんは叫んだ。
「何で、棗しかいないの!?」
「馨は部活の申請出しに行った」
「ちっがーう!そうじゃなくて、最後の生き残りはどこ行った!?」
「死亡。もう耐えられねぇんだと。ふざけんなって追い出してやった」
誇らしげに語る棗君に向かって更に咲綺ちゃんが噛み付いた。
遡ること二週間前。
部活動紹介で成功とも思われる演奏を舞台で披露した軽音同好会にはその放課後から音楽準備室には入り切らない程の入部希望者が集まった。
入部希望者の立ち去り理由のだいたいの内訳はこうだ。
1.主な活動場所がこの汚らしく狭い音楽準備室だと知って、Uターン。
2.自分の愛器まで持って来た経験者はここでは物足りず、自分でバンドを作った方がマシだと判断。
3.初心者の女子は馨君が目当てだったらしく、馨君がなかなか来ないと知ると簡単に消えた。
4.毎日会えなくてもいい、と残った健気な女子は来ればお喋りばかりで楽器を一切弾かないので棗君が追い出した。
5.残る数名の初心者男子はいくらやってもできなコードがあって嫌になったり、早くも飽きたり、最終的には棗君がブチ切れ、馨君ファンと同じ目に遭った。
結局、部活紹介をやる前と全く変わらない今に至る。
「棗がキレたりしなければ、三人くらいは残ったかもしれないのに!」
「言っとくけど、いつか咲綺もキレてたはずだからな。できねぇ、無理だ、教えるの下手くそ、口を開けば文句ばっかり言いやがって。お前は先に手が出るんだから、口だけで追い払われたあいつらは幸せもんだろ」
「確かに、イライラしてたけどさ!我慢してたよ、あたしは!」
「別にいいだろ、四人いるんだから廃部になるわけでもねぇし。来年に期待だな」
諦めの早い棗君は持っていた雑誌に目を落とした。
あまり納得がいっていないような咲綺ちゃんはまだ何かを言いたそうにしていたが、なんとかガス抜きを成功させて話を切り替えた。
「とりあえず、部室確保しなきゃね。今日の馨の頑張りに期待するしかないなー」

