部活動紹介が終わると、咲綺ちゃんのクラスでの人気には拍車がかかったようだ。

元々、どんな時でも話の中心にいる咲綺ちゃんだったが、今や私の近づく隙が無い程順番にクラスメイト達が咲綺ちゃんを囲む。

それを見ていると、何故か私も誇らしい気持ちになった。


「いい気になってんじゃなーい?」

私の心を見透かしたかのようなタイミングで聞こえてきたその心無い言葉。

振り向くと、三人の女子が私の顔を見て囁くように笑った。

「ピアニストはどうしたよ、って感じなんだけどー」

「下手すぎて耳障りだっつーの。早くやめろって感じ」

わざと私の耳にだけ届くような音量で話しているのはわかっていた。

私がここで反応を示せばこの人達を喜ばせることになってしまう。

「ピアニストとかほんとは嘘なんじゃねー?」

「言えてる。サボんなよ、ばーか」


涙が出そうになって、ようやく私は鞄から手探りでiPodを探し出し、耳を覆うようにイヤホンを付けた。

早く、早く。

冷たくなった手を必死に動かし、急いで再生ボタンを押して音量を上げてこの世界から自分を完全に切り離す。



軽音部の仲間に入れたことで自分が変われたような気がしていた。

そんなことはただの妄想で、私は私でしか無く、こうして世界を切り取ることでしか自分の救い方を知らない。


あの人達が言うことは全て間違っていないから悔しかった。

ピアノが上手くいかないから、私は軽音部に逃げているだけなんだろうか。

ライブの一体感を味わったが、あれは私が音楽の一部となっていたからに過ぎない。

その音から離れれば、私はいつもの一人ぼっちの私なんだ。