「こんにちは!軽音同好会ですっ」
咲綺ちゃんが簡単に部活の紹介をしている間に私たちはセッティングを行う。
馨君は布を取ってドラムの後ろに座れば準備完了。肩慣らしに小さく音の確認を始めた。
棗君は慣れた手つきで手早くセッティングを行い、こちらも確認に入った。
「馨くーん!」
数名の女子が甲高い声で手を振り、体育館が一気に賑やかな雰囲気になった。
馨君がそれに答えて笑顔で手を振ってやるとキャーと黄色い声が返ってきた。
馨君を呼ぶ声に混じり、男子の声で「咲綺ちゃん可愛いー」という太い声援。
咲綺ちゃんも馨君も校内での知名度は名高いようで、おかげで演奏前から体育館の空気が暖まった。
咲綺ちゃんが饒舌に喋りながら後ろを窺ってきた。私を含めた三人は頷いて合図を送る。
準備オッケー。
「では、軽音同好会の演奏を聴いてください!みんな、ついて来てよー!」
咲綺ちゃんが最後に盛り上げるように叫ぶと生徒達も声援や拍手で応えた。
その声援が鳴り止まぬうちに馨君が全員に目配せをし、スティックを振り上げた。
曲が始まるとメジャーな曲だからか、生徒達は徐々に頭を揺らしたり、手拍子を始めた。
スタジオでは感じられなかった一体感が徐々に生まれていくよう。
咲綺ちゃんの歌声はスタジオより大きい体育館でも、ここにある全てを一瞬で巻き込んだ。
空気だって、音だって、観客だって。
咲綺ちゃんが乗って来い、と手を上げれば応えてくれる声や手。
サビに入ると咲綺ちゃんの動きが激しくなり、その場で跳ねたり、舞台の端から端を移動し派手にパフォーマンスを取り入れる。
棗君と背中を合わせれば、棗君は微笑を浮かべて咲綺ちゃんに視線を送る。
そんな光景を見て黄色い声の歓声が大きくなった。

