スタジオ練習の次の日から私は音楽準備室で棗君にダメ出しされながら個人練習を主に行った。
同時並行で棗君が貸してくれた本で基礎的なことを反復練習した。
丁度、母は部活紹介の次の日まで家を空けるらしく、存分に家での練習もできた。
私と棗君と咲綺ちゃんの三人は部活の最後に狭い音楽準備室で音を合わせる。
馨君が来た時には馨君も混じって曲を弾く。
ただ、ドラムは無いので馨はスティックで腿を叩き、リズムを取る。
結局まともに合わせたのはスタジオ練習での一回で不安は残るが、本番当日を迎えてしまった。
部活紹介をする生徒達は体育館の廊下で待機し、一つの部活が壇上に上がるとその次の部活が舞台袖にスタンバイする。
「き、緊張してきたー・・・」
舞台袖から野球部の部活紹介を眺めながら掌に人という文字を何度も書いて飲み込んだ。
「お願いだからボール当てないでよねー」
馨君は別の意味で緊張していて、さっきから呪いのように呟いている。
野球部がキャッチボールを披露するその後ろには野球部に似つかわしくないドラムセットが鎮座している。
申し訳程度に布をかけられているものの、野球ボールなんて当たったらそんな布切れが役に立つとは思えない。
準備の時間削減の為に部活紹介開始から置かれているドラムセット。
レンタル品で傷が付いたりしないか廊下で待機中も体育館のドアを開けて舞台の様子を窺っていた。
「つまんねぇな、ただのキャッチボール見てたって。早く終わんねぇかな」
棗君は相変わらずの態度で緊張するどころか、苛立ちを徐々に表に出し始め、いつもの自分勝手全開な発言が飛び出す。
「思えば、人前で演奏するなんて初めてだよね。ワクワクするなぁ」
咲綺ちゃんはその場で数度飛び跳ねた。
この人達、初めてなのに何故緊張しない?
「次は軽音同好会です」
今日一で心臓が跳ねた。
私の緊張を他所に、咲綺ちゃんはマイクを手に飛び出すように一番乗りで舞台に上がって行った。
馨君はドラムに何事も無く、安堵の息を吐いている。
棗君はやっとか、と緊張なんて微塵も見せずにベースを肩に掛けて上がって行った。
私も小走りでそれに倣う。
心臓が飛び出るとは良く言ったものだ。

