カノン




馨君、カズ君と別れた後、棗君はいつものように私を家まで送ってくれる。


長い間、遠距離恋愛を続けてきたけど、去年の棗君からのプロポーズによって、それももうすぐ終わろうとしている。


家に帰りたくないな、と思いながらこうして短い時間を並んで歩くことも無くなるのだな、と思うと少し寂しくも感じた。



「また皆でバンドをやれるのは嬉しいんだけど、正直言うと、怖い」


「・・・まだ、引きずってんのかよ」


「引きずってたわけじゃないけど、あの時の失敗を思い出すとちゃんと弾けるのかなって思う。全然弾いてなかったし」



大学にいる間は良く家で弾いていたし、たまにスタジオでアンプに繋いだりもしていた。



仕事が忙しくなってからはギターを弾く時間が無くなってしまったけど、手入れは高校時代からの日課でやり続けていたからそんなに傷んではいないと思う。


あとは、私の気持ち次第ではある。



「・・・あいつらはそれも見越して提案してきたんだよ」


「バンドをやること?」


「お前にとって、カノンは思い出したくない思い出なんじゃないかって。あの曲が最後になったからな」


「そんなことないよ。カノンは大切な思い出だよ」


「知ってるよ。高校時代の話をお前は楽しそうに話すからな」


私の人生を大きく変えるきっかけとなった高校時代は私にとって特別な時間だった。


思い出したくない思い出であるはずはないけど、馨君やカズ君にそう思わせてしまった自分が情けないと思う。



「怖いと思うのは、ミスしたことがまだ気になってるからだろ」


躊躇いながらも頷くと、棗君は小さく笑う。


「落ち込んだら一緒に演奏しようって言ったのはお前だろ。落ち込む要因にすんなよ」


「痛っ・・・」


頭の上に拳が軽く落とされる。


「明日、スタジオ行くぞ」

「練習?」

「言っただろ。人に聞かせるからにはマジだ」



苦笑いを浮かべて「お願いします」と頭を下げた。