「懐かしいなー」

静かにアルバムを閉じて、アイスコーヒーに口をつけ、背もたれに体を預けて一休み。


「高校の時が1番楽しかったな、俺」

「あ、それ、私も思ってた」


カズ君は「な?」と満足そうに頷いて氷をガリガリ食べていた。


「写真、決めれた?」

「あ・・・、すっかり懐かしんじゃった」


飲み物を入れて戻って来た馨君はカズ君を端に追いやって私と向き合うと、私がサボっていたにも関わらず、微笑んでいた。


「まぁ、そうだよね。俺らだって何年ぶり?」


私とカズ君は「うーん」と唸りながら天を仰いで、「7年ぶり?」とカズ君が先に計算を終えた。


「けど、佐伯さんとは同じ県内だったし、久しぶりって感じはしねぇけど」



専門学校を卒業して、私達の中で一早く社会人になったカズ君はライブハウスで音楽エンジニアとして既に活躍し、後輩もできて今年は教育係を任されているらしい。


「馨君、遠すぎたし忙しすぎたよね」


馨君は県外の大学を卒業してから大手の外資系企業に就職し、日本にいないことも多く、忙しいため、夕方着いたばかりなのに最終の新幹線でまた帰るらしい。



そんな忙しい中、馨君がわざわざアルバムを持って来てくれたというのに、写真選びを一向に進めていなかった私は自分を叱り付けてから、アルバムを再度開いた。



「ここ来る時に見たけどさ、駅前の大きな看板、咲綺だよね?」


「見た?凄いよね!最近は雑誌とかにも良く出てるよ」


咲綺ちゃんは高校を卒業してすぐにデビューをし、いきなりオリコン入りを果たすなどの快挙を果たした。


それから初登場1位になることが当たり前になり、類稀な歌唱力と容姿で、今や有名な歌姫として音楽業界のトップに君臨している。



「レッド・キャッスルとの因縁はこれで打ち切りかな?」


「どうだろう。ジャンルが違うから何とも言えないけど、レッド・キャッスルも初登場1位に良くなってるよ」



レッド・キャッスルはデビュー前とは変わらない編成でロックバンドをやり続けている。


咲綺ちゃんの方はジャンルが様々で、ロック調もあるけど、ポップに明るく唄う曲もあれば、しっとりとしたバラードを唄い上げることもある。



駅前の看板は先週発売したバラード曲の広告で、星空をバックに白いロングドレスを着た咲綺ちゃんが夜空を見上げながら唄っているところを横から撮ったものだ。


「流石にもう、打倒とか言ってないと思うけど」


「どうだか。あんな猫被っても心の中じゃ、何思ってるかわかんないぜ?」


カズ君は咲綺ちゃんが忙しくて来れないことをいいことに、ケラケラと笑っている。