カノン




「何?」

腕を掴かまれたカズ君は棗君を睨み上げた。

「放せよ」

「お前こそ放せ」

カズ君が低い声で言ったけど、負けじと棗君も低く反論した。


「俺達、似合ってんでしょ?棗に関係ねぇじゃん」


「うるせぇよ」


「何だよ。はっきり言えよ」


棗君は私を鋭く見下ろし、すぐにカズ君に向き直る。



「お前にはやらねぇ」



どくり、と鼓動が跳ねた。

カズ君は小さく笑って、手を放して降参、とでも言うように両手を挙げた。


「最初から、そう言えよ。めんどくせぇ奴」


「はぁ?」


カズ君は机の上を片付けて鞄を肩にかけて立ち上がった。


「ごめん、佐伯さん。今の冗談だから」


カズ君は私の耳元に口を寄せて、「もう俺に期待させんなよ」と呟いた。


「おい」

「あー、はいはい。じゃ、佐伯さん。またわかんなくなったら教えてくれよな」



カズ君は「じゃーねー」と明るい声で教室を出て行った。


煮え切らない私に、カズ君は無理矢理タイミングを作ってくれたんだと理解した。

カズ君の思惑はわかったけれど、わかった途端に棗君と残されてしまい、気まずい無言が続いていた。




「お前に話あって来たんだわ」

棗君はさっきまでカズ君が座っていた椅子に横向きになって座り、私の机を肘掛として置いた。


「・・・話?」


背筋を伸ばして棗君の横顔を見つめた。


「俺、経営を学べる大学に行こうと思ってんだ」

「・・・もしかして」

「わかんねぇよ?俺に会社経営なんて才能があるとは限らないし」

「でも、きっと、喜ぶね」


棗君は少し、照れくさそうに微笑を浮かべた。