片づけを終えて、会場を後にしようとすると、後ろから「棗」と聞き覚えのある声が呼び止めた。
振り返ると、棗君のお母さんのお墓で会った男の人。つまり、棗君のお父さん。
「え、誰?」
「棗に似てね?」
「まさか・・・」
小声で咲綺ちゃんとカズ君がやり取りをし、空気を呼んで全員退散しようとした。
「いい。行かなくて」
棗君は手を伸ばして全員を声で制した。
驚いている私達を他所に、棗君はお父さんの方へ一歩踏み出した。
「そうか・・・。あんたもこのフェスの出資者の1人だっけな」
「見てたよ。ずっと」
「マジかよ。あんた、嫌いだったんじゃねぇの?こういうの」
鼻で笑う棗君に若干冷や冷やしながらも、固唾を飲んで2人のやり取りを見守った。
「嫌いだよ。でも、息子が一生懸命にやっていたら、見るだろう?」
棗君よりも柔らかい笑顔で、冷たそうな視線が一気に穏やかな表情へと変わった。
「あれは、ギターというやつか?」
「違ぇよ。ベース」
「ベース?」
「いいよ。後で教えてやるから」
涙が出そうになるのを必死に堪えた。
後で教える、という言葉に棗君の未来への言葉が込められているような気がした。
「俺の根幹みたいなものが今日で無くなるんだよ」
お父さんは棗君の言葉を察したのか、私達に視線を向けてから再び棗君に戻る。
「だから、俺の中で新たに目標を作った」
棗君はお父さんの方を指差して、はっきりとした口調で言った。
「あんたのこと、父親だと思えるようになるって」
「棗・・・」
「どれくらいかるかわかんねぇけどな」
「何十年でも待つよ」
「何十年でもって、あんた、どれだけ長生きするんだよ・・・」
鼻で笑ったけれど、馬鹿にしている感じは無く、寧ろ嬉しそうにも聞こえた。
棗君の宣言を聞いて、私は実感していた。
もう既に、それぞれが分岐点を歩み始めていると。

