拍手を背中に浴びながら、舞台を下りると顔を合わせてにんまりと笑ってハイタッチを交わした。
「よっしゃー!!」
「カ、カズ君!!!」
感極まってカズ君は近くにいた私に抱きついて来た。
慌てふためいているのもお構いなしに「すげー!マジすげー!」と連呼していた。
「いい加減、放せよ。そいつ、窒息するから」
「あ、悪い。嬉しすぎてつい。佐伯さん、大丈夫?」
カズ君の抱擁から解放され、私は息を整えてから頷いた。
「お客さんの反応、すごい良かったよね」
咲綺ちゃんは最早赤くなってしまっている目を擦りながら嬉しそうにしていた。
「俺さ、何か佐伯さんが途中から凛々しく見えてきてさー。あんなに、おろおろしてたのにすげーよ・・・って、どうした?」
私が俯いているとカズ君は覗き込んできて、ギョッとした顔をして慌て出した。
「ど、どうしたんだよ!?ミスのこと気にしてんのか?」
「カズッ!!」
「ご、ごめんなさっ・・・」
皆が私の大失敗に触れないようにしていたのはわかったけれど、やっぱり無かったことにはできなくて、何度も謝ったけど、掠れてばかりで言葉にならなかった。
「誰もふたばちゃんのことを責めたりしないよ」
「観客は楽しんでくれてたし、それでいいじゃん!ミスは付き物だよ」
馨君も咲綺ちゃんも励ましてくれているけど、それがかえって涙を止まらなくさせた。
「お前がミスったところで動じねぇよ。計算内だ」
「棗君、いつもはミスったら殺すぞ、って言うのに・・・」
「そこまでは言ってねぇだろ、ボケ」
「いーや、そういう顔だな」
「お前は黙ってろよ、カズ」
「はぁ!?マジ殺すっ」
荒々しいやり方で場を和ませようとしているのか、カズ君が噛み付こうとし、それを棗君が睨んであしらった。
「怠けてる奴は殺すけど、お前はそんなんじゃねぇから許してやるよ」
「カノンの最後を私が台無しに・・・」
「台無し?お前、ちゃんと観客の顔見たのかよ」
礼をして顔を上げた時のカノンを呼ぶ声と、大きな拍手と大勢の笑顔が脳裏に焼き付いている。
「大成功で終わったんだよ、カノンは」
棗君が言うと、咲綺ちゃんも馨君もカズ君も満足げに笑って頷いた。
それだけで、私の心は満たされるようで、自然と涙は止まって口元が緩んだ。
「すみません」
様子を窺いながら控え室に顔を出したのは見慣れないサラリーマン風の若い男だった。
「咲綺。言って来なよ」
馨君とは面識があるのか、男は馨君に視線を向けて礼をし、馨君もそれに応えると、咲綺ちゃんを促した。
「まだ、ちゃんとした返事をしてないんでしょ?」
咲綺ちゃんは少し不貞腐れたように、下唇を突き出して頷いた。
どうやら、スカウトの人がわざわざ来てくれたらしい。
「俺達に気遣ったら、ぶっ飛ばすからな」
それを察知した棗君が物騒なことを吐くと、咲綺ちゃんは舌を出して「わかってるよ」と男と共に控室の外へ出て行った。

