「最後は応援ソングです。人生に迷っちゃった人、悩んでる人、この曲で元気になってもらえたらいいな・・・、未来の地図」
咲綺ちゃんは飛び跳ねていたせいもあって、乱れた息を鎮める為に一旦深呼吸。
全員汗だくで、息も上がっている。
咲綺ちゃんと視線を交わし、頷いた。
ボーカルとリードギターの私が同時に、ゆるりと曲に入る。
『最初はみんな真っ白で、左右もわからないままだったね』
咲綺ちゃんの声が引き立つように、控えめに、優しく、滑らかに。
レスポールの柔らかい音がこの曲にはマッチする。
『少しずつ埋めていくの。あなたと共に歩いた道もあったね』
伴奏とドラムは忍び足で近づいてくるように、静かにいつの間にか演奏に加わる。
5人の音色が揃うと、徐々に音量とテンポを上げていく。
バラードっぽい始まりから、少しずつ明るい曲調に変わっていった。
『さよならして、悲しい時もあったけど、描く私の道はひとつだから』
サビに入ったら掻き鳴らしてもオッケー。
だから、カズ君は腕を激しく振るう。私も負けじと弦を弾く。
咲綺ちゃんはさっきみたいに激しく走り回ったりはしないけど、観客の目は咲綺ちゃんに集中していた。
この1つ1つのコードを鳴らすたびに、カノンの終りに近づく。
『怖がらないで、踏み出して』
視界がぼやけていく。
嫌だ。嫌だ。
曲は佳境に入り、激しさを増す音と皆の動き。
最後のサビに向かう間奏に入った瞬間、私の指からピックがすっぽ抜けて観客の方へ飛んで行った。
観客はそういうパフォーマンスだと思ったのか、歓声が更に湧いたけど、私の背中を伝っていた汗が一瞬で冷たくなるのを感じた。
「佐伯さんっ」
小さく聞こえたカズ君の声で我に返り、私は慌てて弦に挟んでおいたサブのピックを掴んで弦に触れた。
けれど、突然の出来事に頭の中は真っ白になり、何のコードも浮かんでこなかった。
既にサビに入るところだったけど、異変に気付いた皆は間奏を続け、あたかもそういう曲だったかのようにアレンジし、咲綺ちゃんが変わらず客を煽っている。
焦りばかりが先立って、もうどうしていいのかわからなくなって、棗君に助けを求める視線を向けた。
弾け、俺がどうにかする。
棗君は私が弾くはずのメロディー部をベースでアレンジしながら私をリードしていた。
間奏の途中から思い出した私がそこから弦を弾くと、皆もそれに合わせて入ってそのまま最後のサビに突入した。
『またきっと、会えるよね』
皆との音色に混じり合いながら、冷静さを取り戻し、ミスのことは考えずに弾き続けた。
『あなたと私の未来の地図がどこかで交差していると信じているから・・・』
演奏終了と同時に、強い風が吹いた。
それを皮切りに拍手が鳴り響く。
木霊することなく、次から次へと音は消えていくのにいつまでもはっきりと聞こえてくる大きな拍手。
汗だか涙だかわからない物が頬を伝う。
横を見たら咲綺ちゃんも同じような感じで、肩で息をしていた。
最後に5人で横並びで繋いだ手を天に伸ばし、腕から大きくお辞儀をすると再び拍手が鳴り響いた。

