「どんどん、行くからねー!!ちゃんとついて来てるー!?」
観客が跳ね、それを見計らったように「ケープ・オブ・グットホープ」に突入。
『彷徨い歩く道は色を失ったまま』
棗君に視線を向けると黒髪が汗で少し湿気を持っていて、首筋なんかも汗で光って色っぽくなっていた。
そんなことを思っていたら、棗君も顔を上げて、少し口元を緩ませた。
『灰色にしか見えない景色は脳を麻痺させた』
この歌はやっぱり棗君自身のことだったんだと今になって確信できる。
お母さんが亡くなって、悲しみや寂しさや憎しみなんかがぐちゃぐちゃに渦巻いて、棗君はずっと苦しかったんだと思う。
『一歩踏み出せば、すぐそこにカラフルな光景』
咲綺ちゃんと馨君で始めた軽音部は、きっと棗君にとって気持ちを立て直すための重要な存在だったに違いない。
咲綺ちゃんと同じように棗君もカノンに相当拘っていたんじゃないかと思う。
それでも、自らの手で解散させた棗君の心境は、本当に計り知れないことだ。
棗君が軽音部に戻って来た日。
どうしたらいいのかわからない、と言った棗君はあれからいつも通りに振る舞っていて、それが逆に不安だった。
カノンが無くなったら、棗君はどうなってしまうんだろう、と怖くもあった。
カノンが無くなったら、皆はどうなるんだろう・・・。
そう考えてしまうと、このライブが永遠に続けばいいのに、と祈ってしまう。

