ロックフェスをついに迎えた今日。
既に2つのステージでは各バンドが演奏を始めている。
思った通り、メインステージの客の入りはサブステージよりも相当多く、正直圧倒された。
これはカノンにとって願ったり叶ったりなのか、カノンとレッド・キャッスルの演奏時間帯は同じになっていた。
どちらかのステージで大幅な時間の遅れが無い限りは直接、客の数がわかってしまうわけで、何らかの意図を感じずにはいられなかった。
「私、本当にできるのかな・・・」
遠くから聞こえてくる客の歓声やスピーカーを通してのそれぞれの楽器の音。
他のバンドが1曲終える度に自分達の出番が近づくことを意識してしまい、落ち着けない。
フェス前最後の練習はスタジオでやったけど、相変わらず怒鳴られる回数が多いのは私。
足を引っ張っているのが誰なのかは明白だった。
「今更、悩んだって仕方ねぇだろ」
「そうなんだけど・・・」
「大丈夫。いつも通りやればいいんだよ」
馨君が丸まった私の肩を優しく叩いて慰めてくれたので少し気持ちが楽になる。
「差し入れ持ってきたよ」
麻生さんがレジ袋をいくつか持って控室にやって来て、差し入れをテーブルに広げた。
「あ、やきそばー。あたし、全然出店も見れてないから嬉しいです」
「お昼もまともに食べてないんじゃないかと思って、炭水化物多めで持って来たよ」
「うお!マジ助かるっすー」
ご飯も食べずに最終チェックをやっていたからテーブルの周りに皆嬉しそうに集まって行った。
私もお腹は空いているはずなのに、食べられる気がしなかったからギターの練習をギリギリまでやろうと思った。
「食っとかねぇと、倒れんぞ。今日の気温ヤバイらしいからな」
ここに辿り着くまでに実感したのでヤバイことは理解しているつもりだけど、どうしても炭水化物が喉を通るとは思えなかった。
「食べたら気持ち悪くなりそうだから・・・。それに、練習してないと落ち着かないんだよね」
「無理にとは言わねぇけど。水分は絶対取れよ」
「うん、そうする」
棗君も食事の輪に加わって、私は少し離れてスポーツ飲料を飲んでギターを握り直した。