カノン



突然、音楽準備室のドアが勢い良く開け放たれた。

走って来たのか馨君は肩を上下に揺らし、息も乱れていた。

「みんな重大なこと忘れてない!?」


馨君の問いに棗君も咲綺ちゃんも天を仰ぎ、首を傾げた。

私はもちろん何の事だかわからない。


「俺も忘れてたんだけど、部活紹介どうする?」

「どうするって、予定通り一曲バンド演奏・・・あー!!」

「うるせぇ!」

咲綺ちゃんの声は狭い音楽準備室では簡単に壁にぶつかって戻ってきてしまう。

棗君はわざとらしく耳を抑えて顔を歪めた。

「やばいじゃん!カズがいないからギターパートがいない!」

「そう!ギターのいないバントなんて味噌汁のない朝ごはんと同じ!」

「あたしパン派だからその例え良くわかんない!けど、やばいってのはわかる!」

ご飯派の私でも今の例えは良くわからない。


「そうか?あいつがいてもパワーコードしかできねぇのにバンドとして成り立つか?」

「パワーコードが多い曲だってあるでしょ。一曲全部は無理でもメドレーとかでいけたかも」

咲綺ちゃんは「どうしよう」を連呼しながら頭を抱えている。

棗君には焦るという感情が欠落しているのか、冷静に腕を組んでいる。

どうするか考えているのか、別のことを考えているのか、それとも何も考えていないのか。

やたら怒りは顔に出すのに。


棗君を観察していると、棗君の視線とかち合った。


「そんなんでいいなら、こいつに弾かせれば?音汚いけどカズよりはコード知ってるぞ。あとテンポも遅い」

棗君は私を指差して二人に提案した。

「そんなに弾けるの!?よかったー」

馨君が嬉しそうにして、安堵の息を吐くので慌てて首を振る。

「え!む、無理だよ!いきなり人前で弾くなんて!」

「一週間ひたすらやれ。ギターパートが簡単な曲だって結構あるしな。その本の最後らへんにも簡単な曲はある。それでもいいし、お前が昨日弾いたスターリンクでもいいし。まあ、部活紹介ならメジャーな曲の方がいいか」

「棗、そういう曲の譜面持ってないの?」

「探せばあるかもな」

「持ってきてよ」

「・・・また探さなきゃならねぇのか」

棗君は溜息を吐いた。渡してくれたTAB譜のことを言っているんだろう。